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Gaao Line's Web Journal: Writing about US/UK TVs, cinemas, and foods I love.

極上の政治コメディとしての『シン・ゴジラ』

シン・ゴジラ』。自分も静岡の再放送ウルトラシリーズで育ち『ゴジラVSビオランテ』信者となった、いっぱしの怪獣ファンだったから、観た後は「ごめん……! 疑っててごめん……!」と東宝方面に頭を下げるぐらいの大絶賛だったわけ。泣いたもの。本格上陸したゴジラを仰ぎ見るシーンで、突然涙が吹きこぼれてきた。怪獣のいる光景に言いようのない感銘を受けて。自分でも驚いた。

(以降、多少のネタバレあります。この程度のネタバレなら面白さの本質は変わらないと思いたい)

本当に恐い怪獣

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打ちのめされたのは、その容赦ない破壊描写、怪獣の恐ろしさ。初代ゴジラの恐怖は、戦後30年以上経って生まれた身としては想像するしかない。だけどこの映画は、5年前の大震災を知る我々には、本当の恐怖となって迫ってくる。押し寄せる瓦礫の向こうに見えるゴジラの姿は、まさに津波だ。

初めてゴジラを観る人には、正真正銘の恐怖と嫌悪を抱かせるのではなかろうか。もし劇中に生々しい被害者の描写まであれば、それは上映をためらわれただろう。

いや、「怪獣慣れ」してるはずの自分にも、本作の破壊には恐怖を感じることしかできなかった。大抵の怪獣映画、ディザスター映画では、都市破壊にスペクタクルや快感、美しさが感じられる。でもこの映画では、そんなものを感じる余裕はなかった(感じたのは2度目に観てからだ)。凄まじい破壊に体がこわばる。この映画のゴジラは、ほんとうに恐い。

恐いからこそ、この映画は、一方で人間の圧倒的にポジティブな側面を描いて、バランスを取ってる。それは力強い物語であり、同時に喜劇でもある。笑えるんだこれが。

基本に忠実な物語

この映画、情報量がものすごいから戸惑うけど、削ぎ落してみるとすごくスタンダードな物語の構造をしてる。

序盤で主人公が「怪獣出現」という問題に巻き込まれ、意を決し(手を合わせるシーン)、「怪獣を倒す方法を考える」という物語の目標がセットされる。そして次々と現れる障害・葛藤を乗り越え、目標に向かっていく。最大の障害(米軍の最終攻撃)を乗り越えて目標を達成すると、「実際に怪獣を倒す」という真の目標が与えられてクライマックス。

これはハリウッドの、いや世界中の映画の基本構造だ。ここがおろそかになってない。物凄く忠実に、エンタメ映画やってるわけ。だから『シン・ゴジラ』はすごくブレない、観る側がストレスを感じることのない映画になってると思う。

一人の正義感に燃える男が、愚連隊を率いて、政治という障害を乗り越え、勝利をつかもうとする。この映画は、そういう物語なんだ。

主人公が自ら掲げるテーマ(この国は大丈夫!)に疑問も呈さないのには、確かに物足りなさを感じる。でもそれは、被害者が直截的に描かれないのと同じで、怪獣を圧倒的な恐怖と設定した以上、そうするしかない、ということなんだと思う。

主人公が怪獣でなく日本の現状そのものに絶望し、思い悩む描写が入り込めば、物語が総崩れして、手の施しようのない悲劇になってしまったかもしれない。震災後の絶望まで映画にするには、まだ時間がじゅうぶん経っていない。

極上の政治コメディ

だから、この映画は絶望の断片をコメディとして消化した。政府中枢を舞台として進んでいく物語は、コミカルな表現で彩られている。

スーツだらけで誰が誰だかわからない画面に、専門用語だらけで不明瞭な早口のセリフの掛け合い。その会話の要所々々で、定番ギャグのようなセリフが繰り返される。「おっしゃる通りでございます」、「想定外」、「苦しいところですが…」。一通り喋り通して、次のシーンで気の抜けたオチがつく。

この会話劇を聞いていて、90年代末からの米国東海岸系シチューション・コメディや*1、法廷ドラマの数々。超早口の英語でわけのわからん(実は意味もない)ことを喋りまくって口論する。本人たちは真剣なんだが、その状況じたいが面白いとうシチュエーション。その手法はスタイリッシュでもある。

シン・ゴジラ』も同じで、個々の演者、個々のセリフを独立して見ちゃうと、無個性な(役者も感情を込めるのが難しい)説明文が多い。対話になってなくて、セリフの羅列。ところが全体としてみると、その噛み合ってなさも含めて、異常なテンポがすっごく面白く、おかしい。そして意外にリアルだ。

そんな笑いがあるからこそ、その表裏である問題の深刻さ、恐怖、そして主人公たちの怪獣災害に抗う意思が、コントラストとして引き立つ。

笑いが導き出すもの

この映画の笑いは、映画のテンポを定めるアイテムであり、物語を絶望へと落とし込まないバランサーでもある。だけど、それだけのために投入されたものじゃない。このコメディ的な状況は現実の一部であって、笑わなければならないからだ。

だってさ、現実世界でも、震災と原発事故のときの政府や電力会社の対応や、その直後の政局は、哀しいほど可笑しなものだったでしょ? だからこそ、みんな怒りを覚えたわけで。

 

そして最後のワンカット。そこには、天に向かって苦悶の表情をたたえ、何かをつかもうと手を伸ばす異形の人々がいる。これこそ笑いの裏の顔、怒りと絶望だ。キャラクター性を廃し、異常進化の産物、災害として描かれてきたゴジラ自身が抱えるテーマが、ここにきて明示される。100mの高さから世界を見下ろし、全身から破壊のエネルギーを放射してきた、怪獣の意思。それは、死んだ者の絶望であり、定まらぬ怒りだった。

 

人間の希望・勇気と、ゴジラに秘められた絶望・怒りが、ぶつかり合い絡み合う。その巨大な葛藤。『シン・ゴジラ』の面白さは、この芯の部分があったからこそだと思ってる。

 

余談

笑いという意味で感じ入ったのは、凄まじい被害が出てるのに、ニヤニヤと政局の話をし続ける泉というキャラクター。主人公が暴走しそうになったとき、泉は一瞬シリアスな顔になって彼をストンとレールを元に戻し、またニヤニヤ顔で政局を語りだす。泉は、人間の持つ恒常性という、しなやかな強さを表現する存在にもなっている。巧い。

あ、もちろんネチネチ言いたいところもあります。BGMやSEが懐古趣味すぎて新規ファンには違和感しか与えないとか、カヨコの夢が大統領ってのはさすがにリアリティなさすぎとか、日本が米国の属国って一昔前の情緒的な見方で現実に即してないし逆に「東洋の小国なのに凄い!」みたいな自我の肥大化の裏返しになってイヤだとか。あと書道の動員のよさはこれガルパンよろしくリピーターのおかげで一般層受けはまだ未知数だよなあ。

 

でも大好きだよ! 3回目も観に行くよ!

 

 

*1:『となりのセインフィールド』『Mad About You あなたにムチュー』『News Radio』『フレイジャー』『Just shoot me!』『ウィル&グレース』などなど

シカゴ・ファイア シーズン1 海外ドラマ全話レビュー

AXN放送中のドラマ『シカゴ・ファイア(CHICAGO FIRE)』の、Twitterを使ったおおよそ140文字エピソードガイド&感想、第1シーズン。

あらすじ

ウォレス・ボーデン大隊長率いるシカゴ消防局51分署には、3つの独立した部隊がある。火災や事故に立ち向かうはしご第81小隊、人々を救い出すレスキュー第3小隊、そして被害者の命をつなぎ病院へと送る救命第61小隊。これは、彼らの物語だ。

はしご小隊のマシュー・ケイシー小隊長は、部下を失ったショックから立ち直りつつあった。正義感の強い彼は、ある事故で警官の悪事を指摘したことから、トラブルに巻き込まれていく。

一方レスキュー小隊のケリー・セブライド小隊長は、腕の痛みを止めるために使い始めた薬の中毒になっていた。薬からの脱却を、ルームメイトにして救命小隊のレズリー・シェイが支える。しかし、ゲイの彼女がセイブライドと同居していることは、様々な誤解を引き起こす。

 

エピソード・レビュー

1-1『シカゴ消防局51分署』

仲間の殉職を経験した51分署に、補充の候補生がやってくる。はしご車隊、救助隊、救急隊各面々の顔見せのため出だしはコラージュ的。それが1本の劇に集約していく。群像劇のツボを押さえた作風に安定感を感じるが、同時にどこか古臭さも感じる。★★★

1-2『愛しき人』

同僚を失ったショックの続くセブライト。彼hが建設現場でのレスキュー中に託されたものは……。アクション-メロドラマ-アクションの構成は安定しているが、シリーズ序盤なのに登場人物が多くプロットもぶつ切りで続くので、キャラもテーマも把握が難しい。★★★

1-3『信念』

警官の息子が起こした交通事故。隠蔽を図る父親に、ケイシーが立ち向かう。明確な悪役が出てきて、今後の連続ストーリーが立ち上がる。ヒーロー、悪役、色男、コミックリリーフと、 キャラの立ち位置がクリアで分かりすい筋書き。分かりやすすぎるのも問題だが。★★★★

1-4『1分の重み』

倉庫火災で救えなかったホームレス。その責任はどこに……? 話の主体のボーデンとミルズ、どちらも葛藤の描き方が不十分で、物語はいまいち盛り上がらず過ぎ去ってしまう。サブプロット含めテーマに一貫性が見えてこず、キャラ中心の薄い描写の連続体。★★

1-5『痛みと忍耐』

ケイシーに対する悪徳警官ボイトの嫌がらせはエスカレート。一方ガブリエラは感情に任せた逸脱行為が重なり……。ケイシー対ボイト編が主軸。まっすぐなシナリオは面白味が無いとも言えるが、クライマックス直前らしい盛り上がり。次回への期待は高まる。★★★

1-6『裁きの時』

ケイシーと悪徳警官ボイトとの戦い、ドーソンの不当医療行為の裁定、両プロットが同時にクライマックスを迎えるが、結果的に印象が軽くなってる。火災のアクションシーンとボイト編の解決策がとってつけたように絡むのには落胆。初のお色気シーンがないエピ。★★★

1-7『2つの家族』

ドラッグ工場の事故対応で薬物検査が行われることに。鎮痛剤中毒のセブライド大ピンチ。ほかにも火災あり、銃撃あり、出産ありで見せ場が多いが、最後に2つの家族の意味が語られ、各キャラの物語がひとつのテーマに収束する。しっとりと感動させる良エピ。★★★★

1‐8『試練』

電車の人身事故現場にショックを受けるミルズ、虐待事件に首を突っ込むドーソン、そしてカナダからの客人。どの物語もそれほど盛り上がらず、相互作用も強くなく。火災アクションが無いのも締まらない原因か。最後のとってつけたようなお色気は微笑ましい。★★

1‐9『つらい運命』

火火災でバーガスが負傷。ボーデンは容疑者の少年を追うが……。今回は恋愛エピ。ケイシー、ドーソン、セブライドも、蓋が壊れたみたいにフェロモン垂れ流し。深刻なはずのバーガスの物語も添え物にしか見えない。締まらない物語は悪い意味で「軽い」。★★★

1-10『不穏なクリスマス』

火事場泥棒の容疑で内調を受ける51分署。それが思わぬ問題をシェイに投げかける。弟をめぐりギャングと対峙するクルースの火災救出のシーンは火の粉が美しく、ドラマ的にも見応えがあった。複数のキャラに転機が訪れ、次回を期待させる。★★★★

1‐11『神の裁き』

救急車の事故で重体となったシェイ。それがセブライドに決断を促す。地面陥没のSFXは迫力があったが短め。その分各キャラの物語がテンポよく繋がった。しかしキャラ同士がこうも簡単にくっつくと、将来の性感染症エピの伏線かと思ってしまう。★★★★

1-12『決意』

腕の治療に必要な休職期間の長さに、セブライドの決意は揺らぐ。恋人との別れが迫るなか、彼は何を決意するのか……。レスキューアクションと各キャラの物語が全く絡まず、相互に挿入されるだけ。スタンダードな構成だが物足りない。ドーソンお前は落ち着け! ★★★

1-13『それぞれの決断』

腕の画期的な治療法に決意が揺らぐセブライド。よくも悪くもストレートな山場なんだが、なにしろ恋人が数話出演のゲストキャラなので感情移入が今一歩。ここ数話すっかり忘れられていた放火少年が出てきて、あ、放置じゃないんだとほっとした。★★★

 1-15『悪魔との取引』

麻薬組織に撃たれた兄のため、悪徳警官と取引するドーソン。ハーマン達のバー開店の計画も取引を迫られる。細切れのプロットが並んだだけの散漫な展開。テーマは見えず、誰が物語の軸なのかすら分からない。役者の表情も平坦。何も残らないエピだった。★

1‐16『許し』

クルーズの自暴自棄なレスキューがマウチを危機に陥れる。一方セブライトは元恋人の心を解きほぐそうとするが……。2つの許しが描かれる。キリスト教の隠喩を持たせたクルーズのプロットは絵的にも見応えある。シェイがいきなりHIV感染危機ってのは軽すぎ。★★★

1-17『優しい嘘』

殉職したミルズの父とセブライドの父、ボーデン大隊長。3人の因縁が署に影を落とす。そんな重めの話でも結局愛だの不倫だのに落とし込む。その手法はいっそ清々しい。アクションは肩透かし気味だが全体のテンポは良くも悪くも軽やか。するすると観られる。★★★

1-19『小さな消防士』

ケイシーとセブライトの間で嫉妬の嵐。このドラマ色恋沙汰になるとまともに会話できんやつらばっかや。メインの2つの死にまつわるプロットは今一歩まとまりきらないが、伏線はきちんと回収され、最後のシーンは雪の演出もあいまり感動的。★★★★

1-20『野心』

人工受精用のホルモン注射でキレキレのシェイ、金髪とイチャつき精子提供を忘れたセブライトに怒り爆発! 毎回よくもこれで主役が務まるというクズ人間ぷりに逆に感動。どうせならマリファナ工場火災のプロットもギャグに振れば良かったのに、見所がない。★★

1‐21『報復の始まり』

セクハラ訴訟で窮地のセブライド。遂に開店したハーマンのバーに現れたのは……。化学消防のアクションは全員の連携の見せ方が巧く、久々の見応え。復活のボイド刑事は役者がよく、消防署の軽い面々と対峙させると画面がぎゅっと締まり、期待が持てる。★★★★

1-22『孤独なリーダー』

セブライドは裁判で勝つため奔走する。出動続きで疲れ切った隊長には小さな訪問者が……。セブライド編のオチのつけ方はあまりに安易。相手を単純な悪役に落とし込んだせいで逆にすっきりしない。ラストの火災シーンは炎の演出が派手で観応えあり。★★★

 

以下、レビュー中……

X-ファイル 全208話 エピソードガイド&レビュー まとめ

SFホラードラマ『X-ファイル (X-Files)』の全エピソード 9シーズン202話+リバイバルシリーズ(シーズン10)を、Twitterを使ってすべてレビュー(あらすじ&感想)するプロジェクト。レビューを参考に好みのエピソードを見つけて、ぜひご覧ください。

 

全シーズン・全話エピソードガイド&レビュー

  • 各エピソードのレビューは、おおむね140文字でまとめています。
  • 作品の簡単な筋書きと、テーマ、見どころ、感想などがかかれています。
  • 5点満点の評価がついています。

わたし個人の評価ですから、★の少ないエピソードがあなたにとっての大ヒットエピソードになることもあります。たくさん観て、自分の好みの作品を探してください。

シーズン 放送年度 話数 総評点 平均
シーズン1 1993 24 74/ 120 3.08
シーズン2 1994 25 84/ 125 3.36
シーズン3 1995 24 87 / 120 3.63
シーズン4 1996 24 93 / 120 3.88
シーズン5 1997 20 75/ 100 3.75
シーズン6 1998 22 80 / 110 3.64
シーズン7 1999 22 69 / 110 3.13
シーズン8 2000 21 76 / 105 3.62
シーズン9 2001 20 未レビュー X.XX
シーズン10 2016 6 レビュー中 X.XX

 

 傑作選、陰謀論アークのまとめなどは、追々。

 

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序章

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