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秘密の森 - 海外ドラマレビュー & キャラクターガイド

Twitterを使った韓国tvN制作のドラマ『秘密の森』おおよそ140文字エピソードガイド&感想。

あらすじ

検察官ファン・シモクは、建設会社社長パクから呼び出され彼の家に向かうが、そこには死体となった彼の姿があった。竜山署の刑事ハ・ヨジンと共に犯人を追うシモクだが、彼は上司である次長検事イ・チャンジュンが、殺されたパクと裏で繋がっていたことを知っていた。シモクは検察内の不正を暴くことができるのか? 壮絶な騙しあいが始まる。

『秘密の森』は、日本ではNetflixオリジナルドラマとして配信中。

www.netflix.com

登場人物

キャラクターがとにかく多く、かつスーツのおっさん率高めで混乱するので、メモとして。

ファン・シモク(演:チョ・スンウ

西部地検刑事3部 検察官。天才的な頭脳を持つが、子供のころの情動調節障害の治療のため感情を失い、偏頭痛に悩まされる。被害者のパクが厚岩洞の自宅で殺される直前に彼から呼ばれ、殺人現場の最初の目撃者となる。上司の紹介でパクから接待を持ち掛けられていたことから、検察内部の不正を疑い捜査を進める。

ハ・ヨジン(演:ペ・ドゥナ

竜山署強力班(強行犯担当課に相当)刑事。感情は豊かで正義感が強い。事件現場で偶然シモクと居合わせたことから、公助捜査で行動を共にすることが多くなる。情に厚く、被害者の母親を気に掛ける。

パク・ムソン(演:オム・ヒョソプ)

事件の被害者。建設会社社長。何かの秘密があり検察のイ次長に便宜を図っていたが、会社が破産したことから縁を切られ、その後老母を残したまま何者かに殺される。その直前にシモクを呼び、何かを告げようとしていた。

カン・ジンソプ(演:ユン・ギョンホ)

ケーブルテレビの修理業者。パクの殺害直前にパク邸に入っていたことから、第一容疑者として逮捕される。妻子があり、無実を訴える。

イ・チャンジュン(演:ユ・ジェミョン)

シモクの上司。西部地検 刑事部次長検事。中堅財閥ハンジョグループの会長を義父に持つ。パク社長の関係する何らかの不正行為を知っており、彼から過大な接待を受けていた。シモクにも仲間に入るよう勧めたが断られ、彼が事件を通して不正を追及し始めたと知ると、彼に圧力をかけ始める。

ソ・ドンジェ(演:イ・ジュニョク)

刑事3部検察官。イ次長とともにパク社長の接待を受けており、シモクを目の敵にする。

ヨン・ウンス(演:シン・ヘソン)

シモクの下で見習いとして働いていたが、パク殺害事件の担当検事として取り立てられる。失脚した父親の名誉回復を望んでいる。

カン・ウォンチョル(演:パク・ソングン)

刑事3部 部長。シモクの独断に手を焼く。

ユン・セウォン(演:イ・キュヒョン

刑事3部部の事件課長。カン部長の命でシモクの身辺を洗う。

キム・ウギュン

竜山署 警察署長。イ・チャンジュンと懇意。

キム・スチャン

竜山署刑事。ヨジンの上司で、署長、イ・チャンジュンとも繋がる。

チャン・ゴン

竜山署強力班刑事。ヨジンの後輩。

パク・スンチャン(演:ソン・ジホ)

竜山署強力班の新人刑事。

キム・ジョンボン

シモクの中学時代の同級生。カンを弁護した事務所で事務長を務めていた。

ヨン・イルチェ

ウンスの父親。元法務部(法務省)長官だったが、何らかの理由で失脚し、失意の人生を送っている。

クォン・ミナ

ホステス。パクの接待に使われている。本名キム・ガヨン。

ギョンワン

被害者の息子。兵役に就いている。

イ・ユンボ

ハンジョグループ会長。イ・チャンジュン次長の義父。

イ・ヨンジェ

イ・チャンジュン次長の妻

 

 

エピソード・レビュー

第1話

検察官シモクは、検察への収賄を疑われる男の死体を発見、刑事ヨジンと共に犯人を追うが……。盛りだくさんの展開とスピード感は韓国テレビドラマならでは。言い換えれば見せ方に幅がなく映画級とは言い難い。導入編としてがっちり心を掴む内容で、続きを見たくなるのは確か。★★★★

第2話

容疑者カンの死後、次々と現れる殺人偽装の証拠と隠ぺいの罠。目前の上司の不正に、シモクは迫れるのか……? 中締めで臭いセリフを臭く言うシーンは少々興ざめだが、最後の展開は驚く。ここまでは謎の解明にまっすぐ進んできた物語、いよいよ騙しあいの本領発揮。★★★

第3話

イ次長に取引を持ち掛けたシモクは独断でテレビに出演し、状況を敢えてかき乱す。シモクのパーソナルな面がフォーカスされ、捜査一辺倒だった先の2話に比べ緩急のある展開。テレビという舞台で派手さもアップ。むさくるしい男たちの騙しあいの中、ヨジンの温かな個性が際立つ。★★★★

第4話

ウンスの秘密を探るシモク。一方ドンジェは保身のため行動を起こし……プロットが錯綜し登場人物も多く、さすがに混乱してくる。中盤ヨジンが状況を整理するが、そこで思うのはヨジンと同じ「いくら何でも回りくどすぎる」。それが劇の醍醐味でもあるが、ついていくので精一杯。★★★

第5話

ホステスを殺そうとしたのは誰なのか? その容疑は意外な人物に……。新人物もなく意外と進展はないが、シモクが正面切って次長を問い詰めるシーンは事件のターニングポイントで、見応えがある。次長の見え方も変わってきた。クサいセリフもそれを感じさせないスピード感。★★★★

第6話

ホステス殺しの動機を探るシモク。証拠はソ・ドンジェの関連を指し示すが……。ヨジンとの会話を通しシモクの感情が僅かに開かれる。そんなシーンが心地よい。しかし緊迫感の演出とはいえ片っ端からお前が犯人かと問い詰めるシモクのやり方には飽きがくる。ドンジェの顔芸も。★★★

第7話

ヨジンの疑惑をかわすドンジェ。犯人でっち上げは成功するか……? 息切れなのか、シナリオも撮影も演技も急に1ランク落ちた気が。シモクとウンスの会話には何の色気も感じられず、逆に演技過剰になったキャラもいる。ドンジェの顔芸ばかり目立つ展開だが、ラストは報われる。★★

第8話

ドンジェを追い込むシモク。そこに検察をゆるがすニュースが飛び込む。ドンジェのゲスさにイライラしっぱなしだが、おかげで手塚治虫の名言を引き合いに出すヨジンの正義感が際立った。もはやセリフや撮影のクサさを取り繕う様子もなくなったが、そういうものだと割り切る。★★★

第9話

正面から不正事件を追う身となったシモク。敵は身近にいるのか……? シモクの周辺環境がガラリと変わり、新鮮な掛け合いが楽しめる。ちらりと顔を出すシモクの正義感もよい。完全ネタキャラと化したドンジェの出番は減ったが、その分検事長の妻の顔芸がウザさを増してきた。★★★

第10話

意識を取り戻した被害者。その裏で署長は必死の保身を図るが……。ウンスの父の問題に一応の決着がつき、大きな収賄の構造も見えてくるが、シナリオとしてはいまいち緊迫感がなく、盛り上がりに欠ける回。序盤にお為ごかしに入る軽トラカーアクションは唐突すぎて失笑。 ★★★

第11話

被害者が口にした数字の謎を追うシモクたち。国の中枢ではイ・チャンジュンの暗躍が始まる……。突如として韓国軍兵器の故障問題をテーマにした政治劇が織り込まれ、謎の日本人まで登場! 話がどんどん広がる。中盤の犯人逮捕シーンは間延びするが、意外な事実もあり楽しい。★★★

12話

再び事件の現場に戻るシモクたち。一方財閥の陰謀が世に出たことで、特捜チームは危機に直面する。最近の安っぽい演出から打って変わって、抑制の利いた演技に美しい絵作り。シモクやチャンジュンの感情が掘り下げられ、最後には衝撃の展開が! これまでで最も完成度が高い。★★★★★

13話

07の謎、そして不正の告発者を追うシモクだが、部屋を荒らされ捜査中止の圧力を受ける。撮影は美しいが、物語は状況の変化を描くだけで起伏に乏しく感情が誘導されない。お陰で驚愕のラストも盛り上がり感半減。一体何の捜査をしてるのか、いい加減把握するのに一苦労。★★★

14話

新たな殺人の衝撃がシモクらを襲う。彼女の残したノートに描かれていたものは……? 前回のラストから一気に畳みかける展開で、いよいよ大詰め感が出てきた。ラストの大捕物は、結末のヨジンと犯人の目の演技も含め出色のでき。怒りで涙を堪えるヨンジェの姿も見逃せない。★★★★

15話

犯人はなぜそこにいたのか? シモク最後の捜査、そしてチャンジュン最後の暗躍が始まる。もはや穴だらけの脚本は笑うまい。繋がりそうで繋がらないヤキモキ感をよくぞここまで引っ張った。序盤の自白シーン、終盤のチャンジュンの策謀、ペ・ドゥナの潤んだ瞳も忘れられない★★★★

16話

チャンジュンは何を求め、何を為したのか。遂にシモクは真実を知る……。たっぷりと時間を割いたエピローグで、多数のキャラそれぞれの物語・伏線に結末を与え、検察とは何かという社会的なテーマも語らる。高密度の物語に見合った充足感。終わり良ければ総て良し! ★★★★★

 

 

『ライフ』 - 真田広之がとにかくいい映画。

真田広之がとにかくいいわけですよ、この映画。端正な英語演技、記憶に残る存在感、かといって主役を喰うわけでもなく。人種でどうこう言うのは苦手だけど、真田せんせいは過去多く演じてきた「ミステリアスなアジア人」から一歩進んで、ハリウッドトップクラスのバイプレーヤーとしての地位を確立したんじゃないかと思う。

あらすじ

宇宙ステーションで大騒ぎ

感想

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演出の都合で現実よりだいぶ広い国際宇宙ステーションで、6人のクルーが恐怖と対峙するわけだけど、真田せんせいはそのシステムエンジニアとして、ステーションを恐怖から救うため活躍するのが仕事。その活躍っぷりは、実は能動的なことはほとんど何もしない主役ジェイク・ジレンホールよりよっぽど立派。

でも真田せんせいの活躍、存在感の理由は、日本人ならではの何とかでなく、その「普通さ」にあると思う。むしろ普通であるがゆえに活躍の機会が与えられたんじゃなかろうか。

まず「普通に英語で演技ができる」という、日本から渡米した役者の最大の難関をクリアーしていること。英語が当たり前に喋れて、かつ自然に日本語を交えることができる。二か国語のできる役者はザラだけど、日本語のできる日系人の役者はなかなかいない。次に外見。なにか特徴だった容姿でなく、目の細い典型的なアジア顔なのがプラスに働いていて、適度に地味。髭はそこに良いアクセントになってる。結果的とはいえ計算つくされたような演技・外見は、白人の主役を喰うほどでもなく、しかしその背後で確実に印象に残る。人に対して使う言葉じゃないけど、「使い勝手がいい」というのは、こういうことなのかな、と思う。

無重力のステーションを動き回る姿を再現する力業に近いワイヤー特撮も楽々こなしたろう、アクション俳優出身の身体能力の高さも、ここまでの活躍に至ったポイントのひとつだと思う。後半飛びながらCGIキャラにキックするその「当たってる感」とかすごい。

いやあ、ここまで「普通に演じられる」役者になるのは、並大抵のことじゃなかったと思う。

 

ホラー映画では馬鹿から順にひどい目に遭って殺されるというジェネラル・オーダーがあるというのは、ホラーをたしなまない私でも薄々分かってて、この映画も原因を作った馬鹿や熱血馬鹿がわりとひどい殺され方をする。だけど、真田せんせいは最後までしっかり活躍したうえで、残酷描写のない、ある意味きれいな最後を迎えられる。彼の存在感がドログチャエンドを許さなかったということなんだろう。いや、ほんといい演技、いい存在感だった。

 

で、映画としてちょっと思うのは、その馬鹿とアホの少なさ。宇宙ステーションという設定からか、登場人物6名みんな科学者・宇宙飛行士然としていて、前記の2名の馬鹿も比較的馬鹿でない。献身的な任務をこなし感動的な最後を迎える宇宙飛行士もいる。これはなホラーの文法でなく、ディザスター映画の文法だと思う。

純ホラー映画といわず、残酷であるが故の笑いは、やっぱり馬鹿がアホやって殺されるから映えるし、自分はそれを求めてるんだと思う。宇宙で場違いなセックスやってその隙に殺されちゃうのとか、そういうのが見たいわけ。生き残った2人が今生の別れとセックスして襲われるんじゃないかと最後まで期待してたもん。今回。

その辺が不満といえば不満だけれど、恐怖の緊張感は持続するし、最後の様式美的な結末(あっけらかんとしたエンディング曲含め)もよろしく、重たい映画ばかり観ているなか軽くさわやかな後味を感じるよい映画でした。 

映画『ウォー・マシーン 戦争は話術だ!』 - 「情けない」おはなし

観終わって、なるほどと感心した。こういう映画はNetflixだからこそできたのかもしれない。ド派手なブロックバスターとも、単館系の物語映画とも、あるいはテレビサイズのドキュメンタリーとも違った、特異な手触りだ。

あらすじ

部下からの信頼も厚いアメリカ陸軍マクマホン大将は、泥沼化したアフガニスタン紛争で「勝利」を収めるため、現地に赴く。自分の手で実電できる範囲の勝利を自分自身で定義し、その実現のための手段を練る将軍。彼の試みは、成功するのか?

配信

ノンフィクションの手触り

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最近読んだ本に、『アシュリーの戦争』という米国作家のノンフィクションがある。米軍初の女性特殊部隊が、どう構築され、アフガンの戦場でどう戦ったかを、綿密な取材を重ねたうえでひとつの物語のように書き上げた本だ。その結末はつらいもので、どっしりと思い感動が心に残る。それは「泣かせ」じゃない。個人の感情の話に走らず、組織や状況がなぜ、どのように作られ、どのような結果になったかを、ノンフィクション特有のドライな筆致で積み上げていく。その結果として、ある暗い理解をもたらす。

本作にも、このノンフィクションとそっくりの手触りを感じた。

映画の原作『ザ・オペレーターズ』は、ジャーナリスト、マイケル・ヘイスティングがローリング・ストーン誌に発表した、陸軍大将スタンリー・マクリスタルの密着取材記事を書籍にまとめたもの。『ウォー・マシーン』は架空の物語となっているけれど、ノンフィクション本の雰囲気をそのまま映像化したんだと感じられる。

 

この映画はドライだ。序盤で観る側の感情をコントロールする物語の起伏もなく、つらつらと将軍と仲間たちの行動が描かれていく。ブラッド・ピットの演技は少し浮世離れしたところがあり、そこもまた、感情移入を拒む。

コメディのジャンルにカテゴライズされている本作だけれど、その枠に入るものか、正直自信がない。風刺的な映画だが、個別の状況をことさら明示的に批判していない。音楽やセリフで「これは愚行ですよ」と強調しない。ただ将軍と仲間たちの行為が流れてゆく。その流れ全体から、不穏さ、愚かさが滲み出ている。

もちろんエンタメ映画だから、終盤にはある程度分かりやすく演出されたクライマックスがある。ティルダ・スウィントンが演じるドイツ人政治家が(この人ほんと誰にでもなれるな)、彼の一連の作戦の問題を鋭く指摘するシーンは、アフガニスタン戦争における状況全体の何が問題なのかを見事に表している。それは、米軍が問題解決という名のビジネスのロジックで戦争をしていることだ。正義と人道の実現のための戦争の中身は、乾いたビジネススキームの積み重ねだ。その枠の中で、人は成功を求めてしまう。

 

映画は、そのビジネスの失敗の物語だ。成功も栄光も、一瞬たりとも出てこない。マクマホン将軍とアフガニスタン紛争は、ただただ、失敗していく。さらに、その失敗が繰り返されていく。そこに怒りを感じるか? 悲しみを感じるか? 自分に残ったのは、なんというか、情けないなあ、という感情だった。『ウォー・マシーン』は、そんな感情を与えてくれる、稀有な映画だ。

マイケル・ヘイスティング

もうひとつ、この映画は作るに値する理由があったと思う。映画の原作『ザ・オペレーター』を上梓したマイケル・ヘイスティングは、その後も米国連邦政府に対する批判的な取材記事を出し続けていたが、2013年に交通事故を起こし、33歳の若さで亡くなっている。この事故は夜明け前の時間帯に彼の運転する自動車が最高速度で並木に激突するというもので、その状況から陰謀説が囁かれている。

ドラマチックな陰謀説にはあまり与したくないけれど、あまりの若さで世を去ったこの作家の業績は、広く伝えられるべきだろう。自国の暗部を明らかにし、国をより良いものにする機会を作ろうという彼の意思が、映像作品として常に手の届くところに置かれる意義は深いんじゃなかろうか。