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Gaaoline's Web Journal: Writing about US/UK TVs, cinemas, and foods I love.

『人類、月に立つ』 海外ドラマレビュー - 人類最大の冒険

映画『アポロ13で主演し、今や時代を代表する俳優となったトム・ハンクス。いくつかの映画の制作側にも立ってきた彼だが、彼の製作者としての最大の業績は映画ではない。テレビだ。フロム ジ アース トゥ ザ ムーン(邦題: 人類、月に立つ)は、彼の総指揮のもと、今までのテレビに無いスケールで、月面探査に賭ける人々と、それを通して見える1960年代のアメリカを描ききった、60分全12回のドキュメンタリー・ドラマである。

時に1961年。東西冷戦のただなか。アメリカとソ連の軍拡競争は、宇宙開発という仮のかたちを得た。最初の有人宇宙飛行で後れを取った米大統領ケネディは、60年代中の有人月面探査を宣言する。しかし、使命を与えられたNASAスタッフたちは、彼らの暗いくびきを忘れ、アメリカの、世界の、人類の最大の冒険へと走り出した。「月への旅」を夢見た人々。彼らの英知と苦闘の結晶が、ニュー・ナインを未知の大地へとはこぶ!

かたちとしては、実話をもとにしたドラマ、ということになるのか、このミニシリーズ、私の心の琴線に触れまくり、背筋なでまくり、毎回々々、ただでさえ緩い涙腺が開きっぱなしだった(いい歳して恥かしい)。

別に人の命を懸けて闘うわけでもない、感動の再会があるわけでもない、悲痛な愛があるわけでもない、この物語がなぜ私を感動させたのかといえば、登場人物達が、真の意味で、生きていたからだろう。アポロ1号の責任問題で激論を交わすハリソン・ストームスとジョー・シーア。月面まで来てはしゃぎまくるピート・コンラッドとアル・ベーン。彼らは視聴者に感動を与えるために企画段階で設定されているのではない。これは私の生まれる10年以上も前に起こった事実なのだ! それを意識すると、台詞の一言ひとことが重みを持って耳に入ってくる。下らないアメリカンジョークも、宇宙という背景があれば、笑いの後に一瞬の感動を残す。

そして、彼らの見上げる巨大なロケット、月、宇宙。日常から遠く離れた世界に、彼らは接点を持っていた。彼らの経験した最もエキセントリックな非日常が、あまりに日常的な人間の描写を通して視聴者に伝えられる。宇宙に居るということが、圧倒的なリアリティをもって感じられるのだ。彼らが足を踏みれた、私の届くことのできない世界を、共感できる。これが琴線をかき鳴らす。

 

こうした感動は、俳優の堅実な演技無くしてはありえない。出演する俳優は、映画スターのような派手さはないものの、名前をチェックしてみると誰もかなりの経歴を持っている。このドラマはそういった一定水準以上の俳優を使い、他の多くのクオリティドラマで培われてきた手法をもってリアリティのある会話とメリハリのある画面を作っている。

印象に残った場面をあげるのなら、第2話はSFXシーンはほとんど無いものの、事故の責任をめぐる口論シーンやその後の公聴会のシーンなどで素晴らしい演技が観られた。また第10話の地質学者たちの興奮も、少々作りすぎではと思えるところもあったものの、いかにもな口調と感情の表し方で、彼らの感動が画面の外にもよく伝わってきた(この辺は英語版での印象です)。

ちなみに最終エピソードに存命するアポロ計画関係者へのインタヴューがあるが、その一部は明らかに俳優による演技である。これはちょっと反則かとも思うのだが、本人の意思など色々と問題もあったらしい。まあ演技ならばドラマ部分とイメージが整合するので、全体をひとつのドラマとして楽しもう。

SFXも『アポロ13』と比べても殆ど見劣りすることの無い、テレビで出来る最高水準のものだ(あの映画も、今見ると発射台の先端部分にかかる雲の描写など、割とアラが見えたりする)。特に第一回終盤の宇宙飛行士のシーンは特筆だろう。直径2メートルもないアジーナロケットに文字どおり跨り、地球の水平線の向こうに見える大きな月を正面に見据えて軌道を進むシーンは、フルCGIVFXとして、月への希望を感じさせるエンディングシーンとして、そしてBGMもあいまった西部劇のパロディとして、最高のものだった。(宇宙服の手袋に青い雷光が纏わりつく描写がありましたけど、あれの原理はなんだったんでしょうか?)

なんだかホメ過ぎだけど、これは先に書いたように、私の感動の焦点に作品がぴったりハマってしまったからだ。あまりにハマッてしまい、何の絵も無いエンディングのスタッフスクロールですら、ハープの除草からヴァイオリンの旋律が入るところで物語の余韻で涙がこみ上げてきてしまったりもした。

感動の焦点があわないひとには、たいして面白くない、絵はきれいだけど退屈なドキュメンタリードラマにしか映らないかもしれない。事実、ニュージーランドでのシリーズの視聴率はかなり悪かったらしい。しかたない。この感動が共有できなかったのは、残念だ。

30年前に月にいった人たち。これほど不思議な感触をもった言葉はないと思う。まるで、未来が過去になったようだ。

 

このミニシリーズが、サイト制作の直接のきっかけとなった。映画に決してひけを取らないクォリティを持ちながら、映画というメディアでは絶対に不可能な、この12回連続、計720分のドラマは、私に新しい世界と感動を見せてくれた。この90年代に、アメリカのテレビと知り合うことが出来て、本当に幸運だったと思う。

ついでに、このHBOのドラマが地上波で無料放送されたニュージーランドにいて、本当にラッキーだったと思う。

 

HBOのサイトによると、既にビデオ化が始まり、98年冬にはDVDでもリリースされるようだ。日本では、NHKの衛星第2が99年6月に放送している。ところでサイトの一部によると、実は第13話が作られ、それはソ連の宇宙開発に関するものだとあったのだが、ニュージーランドでは未放送である。アメリカでの扱いもよくわかっていないのだが、日本では放送されるのだろうか?

 

FROM THE EARTH TO THE MOON DVD【MOON BOX】

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人類、月に立つ〈上〉

人類、月に立つ〈上〉

人類、月に立つ〈下〉

人類、月に立つ〈下〉