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Gaaoline's Web Journal: Writing about US/UK TVs, cinemas, and foods I love.

テレビと愛国心の暗黒面

朝。シャワーブースのカーテンを開けると、キリギリスが死んでいた。ああ。秋になってきたんだなあ。でもあなた、どうしてこんなところで。

めったに観ないTV1の『ホルムズ』というニュース・ショー。たまたま観たきょう、番組が取り上げるのは「ヨーロッパ人で初めてその過去を明らかにした従軍慰安婦への独占インタヴュー」。従軍慰安婦は英語で言うところの「コンフォート・ウーマン」。しかしてその実態は、「セックス・スレイブ」。……日本帝国が戦時中に犯した、隠された卑劣で狂った犯罪に、番組は迫ります……。

出てきたポルトガル人の女性(てことはインドネシアに居たんだな)が、きれいな英語で彼女の過去をつらつらと喋る。「……日本の兵隊がサムライソードを持ってやってきました。今でもあの鉄の感触を覚えています……。夜が怖いです。夜になるとレイプされるから。今でもやってきた日本人観光客が日本語を喋るのを聞いただけで戦慄が走ります。……自分の過去を明らかにするのは勇気の要ることでした。でも、子供たちに伝えたかったから……」

……なんなんだ。聞いていて湧き上がるこの、黒く、モヤモヤとした感情は。

この番組にものすごくイライラしたのはどうしてだ。番組の作り方が恣意的に思えてしまってしかたない。あるいは偏見交じり。間違いない犯罪の被害者なのに、なんでこのインタビューに対して反感を抱くんだ。誰だ! 「ヤケにシャキシャキ喋るなあ。演技指導入ってんじゃないの?」などと頭のスミから囁きかけるのは!? (私だコーホー) ……なにか公報機関の方ですか? (ちがう、コレは息の音だコーホー。お前はいま、愛国心の暗黒面に足を踏み入れたのだコーホー) 暗黒面? これが愛国心なのか!? (そうだコーホー。お前はいま、非難される自国を庇おうとしているコーホー) そ、そうだけど……。 (憎しみを蓄えるのだコーホー。理不尽には理不尽で反論するのだコーホー) ち、違う! 慰安婦の存在は事実だし、それを非難されても当然のことなんだ! (白人どもがいかに偏った考えを持っているか、お前は身をもって知っているだろうコーホー) それは日本人も同じだ! この感情こそ理不尽だ! 僕はこんなモノを得るために海外に出たんじゃない。愛国心はこんなものじゃないっ! (私はお前の父だコーホー) 知ったことか!!

ちょっと冷静になってみると、こんなにイヤに感じるのは、ヨーロッパ人がヨーロッパ人の被害をヨーロッパ人に伝えるために作った番組だったから、ていうのはあるかもしれない。これが韓国人や中華系、フィリピン人なんかからの非難だったら、ああそうだよなあ。言われても仕方ないよなあ。ちゃんと謝ればラクなのになあ。なんて考えたと思う。でも、相手がヨーロッパ人だと、「あんだよ。アンタらも同罪じゃネエか。他人を非難する前に自分がナニしたか考えてみろよ」てな按配だ。その考えは逆の意味で人種差別だし、この老女は純粋な被害者で、彼女がインドネシア占領を指揮したわけでもないのに。

南京大虐殺について、日本では政府がその事実を隠し、国民は何も教えられない、と、こちらでは言われる。「んじゃ生首の山や女性器に棒きれの突き刺さった死体の写真を中学生に見せろっていうのかよお。スミソニアンに広島の焦げた弁当箱すら持ちこませなかったのはどこのどいつだよお」と感情的に反論する思考サブルーチンが自分の頭の中に居る。この、どっちもどっち理論を、一理あるんじゃないかと思えてしまう。どうしたもんか。

こういう湧き上がる感情が、なかったらラクなのに……。

『ABCトゥナイト』で、ニューヨークのアイルランド系移民のパレードのニュース。ひとつだけ海外から招待されたのが、日本のバグパイプバンドだった。にこやかにインタヴューに答えるおっさんと、歓声で向かえるニューヨークの観衆。ずっとこんなニュースだけ聞いていたい。

今。こおろぎが鳴いている。秋だなあ。