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Gaao Line's Web Journal: Writing about US/UK TVs, cinemas, and foods I love.

海外ドラマ: Law&Order 8-10話 "Ritual"


ロー&オーダー で印象に残るのは、どうも性犯罪関連が多いような気がする。今回のエピソードも、直接的な性犯罪ではないけど、かなり複雑、そして難しいテーマ。文化対立と親権問題を描く。

――テロリスト犯罪かと思われたアラブ人の死は、裕福なエジプト移民の妻とアメリカ人の夫の対立によるものだった。検察が立件した容疑者である夫は、11歳の一人娘を割礼から守るために殺人を犯したのだ。彼を検挙した為、アメリカの習慣からすれば明らかな非人道的行為を擁護する立場に陥った検察当局。そして少女の運命は――

女性の割礼は、中東からアフリカにいまでもある習慣。これは結婚まで女性の処女性・貞節を護るために、少女のうちにクリトリス、小陰唇や時に大陰唇までを傷つけてしまい、結果自発的な性欲を封じてしまうもの。作中ではクリトリスそのものを削除すると明言している。これだけヘヴィなネタだと、相当注意して扱わなければならないわけで、事実、裁判シーンでは文化人類学者を証人に立たせているし、「宗教ではなく純粋な文化的習慣」とハッキリ言いきる場面も見られる。これはキリスト教系アメリカ人のイスラム教に対する無用な誤解を増幅させないために意識されてるんだと思う。

それでも、もし自分がエジプト人だったら相当イヤな気分になるだろうなあ、というセリフも多い。日本もこうやってアメリカドラマで扱われる事が多いんだけど、観てるとどうしても、異常と見える習慣だけがクローズアップされ、「あいつら、こっちのことを野蛮人だと思ってるんじゃないか?」と思ってしまうのだ。

ただ、製作者が真に問題にしたいのは、異文化に対峙することとなってしまった、アメリカ側の苦悩だろう。エンディング近くに、エジプト人の母の、こんなセリフがある。「自由の国アメリカと言うけど、テレビを見ても新聞を見ても、セックス、セックス、セックスばかり! 子供の妊娠が当たり前! 誰が娘を護るの!?」 ここ、ポイント高いと思う。割礼を非人道的とするアメリカの倫理は、手痛い一撃を受けることになる。

作品では審判は家庭裁判所に持ち込まれ、最終的には父親が娘を母親から奪い去るという結果になる。このシリーズお得意の、心苦しいエンディングだ。テーマが巨大であるだけに、描き切れていないんじゃないかと思える点も多く見える。例えば民族の文化・習慣の差を乗り越えて結婚したはずのふたりが、結局文化の差を巡って決別してしまう心境などもしっかり観たかったんだけど、抑圧された作風が特徴の本作では、明示されなかったた。

そういった見えない部分を含めて、作品の内容、そして作品そのものの方向性と、複数の次元で考えるところの多いエピソードだった。じゅうぶん、もとはとれたと思う。なにしろ、考えさせる為のドラマなんだから。

ところで、前半の捜査シーンで、テロリスト犯罪を考慮した刑事が、フル装備でライフル銃を構えた兵士を従えて公道を歩くシーンがあった。かなりカッコいいけど、あんなもんが実際にありうる社会つうのは、つくづく恐ろしいとも。