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Gaaoline's Web Journal: Writing about US/UK TVs, cinemas, and foods I love.

路線バスの運転手はマチュピチュを夢見る

きょうは午前も午後も事故で総武・中央線が乱れまくりだったので、バスを使った。池袋から中野へ行く関東バス。1分に1度はバス停に停まる感じで、ゆうに30分はかかったと思う。

 いちばん前の席に座ったので、運転手とぼちぼち話した。ぼちぼちなのは、なにしろ停車したり曲がったりするたびに、ヘッドセットマイクでいちいちアナウンスをするからだ。その合間に、ちらっ、ちらっと、会話をする。

 彼は岩手の人だった。東京で運転するのは二度目だと言う。知らなかったのだが、バス運転手というのはおなじ路線だけを毎日往復しているのではないそうだ。岩手の地元の路線からはじめて、ずっと運転をして、まわりまわって二度目の東京なのだと言う。

「例えば、この“池11”は中野北口に着きますよね。次にそこから“阿11”を運転する。阿佐ヶ谷に着くと、都営の“渋66”を走る。次は“渋88”で新橋北口……はい右に曲がります……と、ずっと違うところを走るんです。あるとき、ぽっと、違う県にいる」

 そうして、バスの運転手たちは全国を周っているのだそうだ。荷物は誰も使わない車体下のカーゴスペースにトランクがひとつ。寝るときはその時々の会社の車庫の時もあるし、大抵のバスは優先席がベッドになるようになっているという。いつのまに、バス運転手とはそういう職業になっていたのか。

「だいたい15年ぐらい前からですね。無線とかコンピュータとかが発達して。このヘッドセット、ナビゲートしてくれるから。でも、電車の運転手なんて、もっとずーっと前からそうだったじゃないですか。バス揺れますのでご注意下さい……」

 そうなのか。ああ、そうか。電車のアナウンスがいつも、『次は……』のあとがえらく空いて、思い出したように駅名を言うのは、本当に知らないからなのか。なるほど。

 バスは走る。しかし腑に落ちない。バス運転手が言うようなフリーランス契約みたいな形態なら、乗車率高い路線に運転手が片寄ったりしないのだろうか。

「まさか。売上で給料が変わるなんて。運転手の契約は、全国一律なんだから。どこ走ったっておなじですよ。」

 でも、こんな殺風景な都会より、綺麗な風景の路線を走りたいとか、ありませんか? 或いは、走りやすい路線とか。だいいち、どうして全国を走らなきゃならないんです。そう訊くと運転手は、はははと笑った。

「コンクリートジャングルと植物のジャングルに、等しく美を見出せないのなら、それはあなたの心の怠慢ですよ。……新井薬師駅に到着です……逆に言うと、そう感じられない人は、辞めていったんですね。そうして残ったのが、いまのバス運転手、というものなのでしょう」

 今風に言えば、トライブ、となるのか。ちょっとしたネットワークのテクノロジーで、バス運転手は、ある意味ほんらいの姿になったんだろう。

「例えばね、マチュピチュの遺跡の写真を見ると、そのわきの田舎道を走ってる自分が、かんたんに想像できるんです。そういう人種ですよ。バス運転手というのは」

 

■朝食べず。■昼ネギ塩カルビ弁当。■夜茄子とか。