久々にデカい映画だ。エメリッヒの『インディペンデンス・デイ』は素晴らしい映画だと思っているので、あれを超えるエメリッヒ映画は二度とあるまいと思いつつも、数年に一度、彼のあの映像と“モラル”が見られるかと思うと、うきうきと足を運んでしまう。以下壮大なネタばれ。
エメリッヒの映画の味は、“モラル”だ。モラルのデパート、インディペンデンス・デイを思い出してみよう。
- 科学者は信頼しようネ!(主役)
- 軍人はヒーローだよ!(主役)
- 大統領はエラいんだよ!(主役)
- 家族は大切にネ!(言わずもがな)
- 父親はいつだってヒーローだよ!(アル中親父が特攻)
- 黒人は当然のこと、ユダヤも差別しちゃダメだよ!(主役と主役父)
- 職業差別もダメだよ!(主役の彼女がストリッパー)
- 動物はいつもイノセント!(絶対に殺されない犬)
- ゲイも……うーんキリスト教的には微妙だネ!(主人公の友達だけど……ゴメンね!)
- バカは殺されちゃうよ!(クライスラービルのてっぺんで大虐殺)
- 人類みな兄弟、国を超えて協力しなきゃネ!(例の大盛り上がりシーン)
- 地球を大切に! エコだよ!(クライマックス直前にゴミをリサイクル)
この、まさに独善といってよいふんだんな goodness が、SFXスペクタクルのあいだにはさまって、映画になっている。ミルフィーユみたいな映画なのだ。これが楽しくて、クセになる。たいていのディザスター映画もモラル度が高いんだけど、エメリッヒはSFXと、この“モラル”の過剰で成功している。考えてみればこのモラルの押し売り、ナチとおんなじやな。特にゲイに対する価値観とかヒドいかも。
今回の『2012』のモラル度は、『インディペンデンス・デイ』以来のモラルっぷりだった。
- 科学者は信頼しようネ!(主役)
- 父親はいつだってヒーローだよ!(主役)
- 家族は大切にネ!(言わずもがな)
- 動物はいつもイノセント!(絶対に殺されない犬)
- 大統領はいつだって高潔な存在だよ(絶対逃げない)
- ヒトを見捨てる傲慢な金持ちは絶対許さないヨ!(虐殺)
- 再婚相手はどんなにいいヤツでも、本当の家族じゃないヨ!(虐殺)
- 商売女はどんなにいいヤツでも、孤独な最後が待ってるヨ!(虐殺)
- ほかをおいてもチベット僧と老婆は助けるヨ!(そのまんま)
- 人類みな兄弟、国を超えて協力しなきゃネ!(例の盛り上がりシーン)
- エコだよ!(人類40万人しか生き残れないとかいいながら、緑豊かなアフリカはほとんど無傷!)
うーん満腹。ちなみにゲイは出ない。キリスト教の持ち出し方もド直球で、映画らしい暗喩なんてものは一切使わない。キリスト像や教会が繰り返し破壊され、終末を演出する。イタリア首相もバチカンとともに運命を共にする。『トランスフォーマー2』で、オプティマスの復活直前にヘリコプターの陰がバカでかい十字架を描いたわかりやすい演出が、別の意味でおこちゃま演出に感じる出来だ。
ただ今回最大のモラル欠落だと思ったのが、いちばんの憎まれ役である主人公の上司(人々を見捨てようとする)が、最後まで殺されないことだ。これはむしろ、「人々を引っ張る政府の側にだって言い分はあるんだよ」という新しいモラルの提示なのだろうか?
科学的にはもちろんムチャクチャで、なにしろエンドロールに“インスパイアド・バイ・グラハム・ハンコック“神々の指紋”と出てくるぐらいだし、冒頭シーンの惑星のビジュアルからしてヘン。そして中盤、主人公の飛行機(アントノフだ! ウラー!)を無補給でアメリカからチベットに届かせるために、超絶的な離れ業をやってのける。飛行機が目的地に着かないなら、目的地が飛行機に近づけばいいのだ! というわけで、地殻変動を盾にチベットをユーラシア大陸ごと東シナ海あたりにもってくる。感動した!
そして個人的にもっとも好ましかったのが、クライマックスを彩る“箱舟”だ。ヒマラヤ山中に作られた秘密発着場と、山中に係留された超巨大船は、スター・ウォーズと変わらないようなセンス・オブ・ワンダー的ビジュアルなんだが、それがテンションノリノリの大破壊のあとだと、違和感なく“現代の建造物”として受け入れられる。現代の技術力を駆使すれば、このくらい作れそうだな、という気になる。この“未来”と“現在”とのダイレクトなつながりが、とても心地よかった。
さいごに、役者はみんな安めなんだが、最後まででる科学者役が、『スタートレック:エンタープライズ』のドクター・フロックスだった。
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