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farsite / 圏外日誌

Gaaoline's Web Journal: Writing about US/UK TVs, cinemas, and foods I love.

海外ドラマ: ハイビジョン特集 フロンティア『イラク戦争へのカウントダウン』

うひゃあBBCめ、凄いドラマ作りやがる! イラク戦争直前10日間の人間模様をコラージュした単発作品。

――2003年3月。イラク戦争の開戦を前にして、様々な人々が様々な場所で、様々な葛藤を抱えていた。イラク反体制諸派、各国の国連大使、街中のイスラム教徒、国連核施設査察団、イギリス国会議員、そして前線の兵士たち……。戦争から5年後、BBC NewsNightが当時の取材を元に、戦争直前の10日間に現実にあったと考えられる8つの出来事を、短編ドラマとして再現した。綿密な取材に基づいたリアルなドラマが、あの戦争に直面した人々の苦悩を明らかにする――

上に書いたとおり、開戦5周年記念にニュース番組内で放送された短編ドラマを、NHKがまとめて放送したらしい。どれも実際の取材やインタビューを元にしているとの事で、出てくる人物もみな実在。ドラマで現実を再現した、いわゆるドキュドラマだ。しかしこれがどれも素晴らしいクオリティで、日曜の夜たまたまいちばんうるさくないチャネルがNHK-BShiだったからつけてただけなのに、画面から目が離せなくなってしまった。ずーんと重い感動がくる105分だった。

ドキュドラマにありがちな中途半端なクサさ・安っぽさを可能な限り排除し、“ドラマらしいリアリティ”を発揮させた演出と映像は、今やってるNHK-BS2の『ステート・ウィズイン』と『ミセス・プリチャードの挑戦』の演出や撮影の手法を200%レベルアップさせたような感じだ。映像も完成度が高く、現実の部分とフィクションの部分がハイビジョンレベルで違和感無くコラージュされている。イラクの街並みや、霧にまみれたウェストミンスター宮殿(英国国会議事堂)など、つなぎのロングショットでも、はっとさせられる映像が多い。

1本が10分程度のドラマの集合体だから、これだけ濃密な劇が作れたのかもしれない。これ、それぞれ100分ぐらいの長さで観たいけど、そうすると『ステート・ウィズイン』みたく間延びしてリアリティの消失したドキュドラマになっちゃうんだろう。8つの物語がテンポ良く重なり、イギリスがどう戦争と向き合っていったかがよくわかる。悩みと虚しさに共感できる。

8つの物語はどれも素晴らしいんだが、個人的に『イギリス外務省編』の法務担当官と、『国会編』の労働党議員がシビれた。どちらも女性なんだが、キャリアバリバリの女性が物凄くカッコ良く描かれてる。いや、カッコ良いってヒーロー/ヒロイン然としてるんでなく、目の前の問題に凄く生々しく悩んで、決断するだけなんだが。ていうか、イギリスの立法行政って色んなところで描かれるのを観るにつけ、ほんと性差が無いよなあ。サッチャーがいたからか。みんな政治家というよりできるビジネスパーソンみたいな感じで描かれてる。

そして最後のエピソード。開戦当日、クウェートに展開しているロイヤル・アイリッシュ大隊 コリンズ大佐が主人公となる。彼が出撃にあたって兵士に演説するんだが、これが聞いてて涙がでる。Wikipediaをあたると、この演説は同行していたひとりの女性ジャーナリストが見て書き残したもので、即興だが、コピーがブッシュ大統領の執務室に貼られるぐらい、人の心に響くものだったようだ(専門家に言わせればシェイクスピアからの影響も見られるって、好きだねイギリスのヒトは……)。

このドラマはまだメディア販売されていないが、BBCローカル放送圏のひとなら、BBC公式サイトからオンデマンドで観られる(日本からは当然無理だ……)。

くやしいので、YouTubeに上がってたコリンズ大佐の演説部分(原語)だけ。英文は前記のWikipediaを参照の事。

政治的な文脈の中で彼と彼の演説をどうみるかは別問題(というか、政治的に考えさせるのがこのドラマの目的ではあるのだけれど)。純粋にドラマとして観ても、非常に良い演説です。演じるのはシェイクスピア俳優 ケネス・ブラナー。どこまで演技したかは不明だが、兵士としての矜持に溢れ、一兵卒の視点を意識し、また来てしまった運命を受け入れてゆく一種の諦観さえ感じられる、巧い語りになっている。なるほどヘンリー五世か。あ、旅団という割には聴いてる兵士が30人ぐらいしかいないのは、まあそこはテレビだからゆるしたったれや。

追記:原文見ながらYouTubeの音声聞いてると、放送時の字幕は非常にナチュラルに、すっと入ってくる良いものだったと思う。録画しなかったのが悔やまれる。これ自分で日本語訳を考えるとちょっと恣意的に作っちゃいそうな表現も多いもんなあ。翻訳者の方も力入ってたんだろうな。