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Gaao Line's Web Journal: Writing about US/UK TVs, cinemas, and foods I love.

テレビと舞台劇の関係

映画もテレビも、どちらも似通った表現手段なのに、テレビドラマ(TV Drama)という言葉があるのに対し、映画ドラマ(Cinema Drama)という言葉はない。

実はこれって、メディアとしてのテレビと映画の本質的な違いから来ているんだろうなと思う。

そもそも初期のテレビドラマは、舞台劇(ドラマ)の中継放送だった。当時はテレビカメラで撮ったものを録画する技術が未発達でコストがかかったからだろう。舞台劇のようにセットを組んで、観客の位置にカメラを固定し、役者が生で演じている“劇”を“遠隔地のの人に見せる”(テレヴァイズ)する。それがテレビドラマだ。

それに比べ、映画はそもそも“動きを記録し、再生する”ことが本質だった。だからドラマティック・プレゼンテーションとしての映画の成り立ちは、テレビよりももっと自由だ。SFXがかなり初期の映画作品から取り入れられていたのも、舞台劇のルールに縛られる必要が無かったからだろう。


ところで、日本の「海外ドラマ」という枠で考えると、別の意味で、舞台劇とテレビドラマに強い関連性がみつかる。

戦後、海外ドラマが日本にはじめて入ってきたころ、放送局は字幕も吹き替えもつけずに放送していたそうだ。これじゃイカンということになって、吹き替えをつけることになった。

字幕のほうが簡単そうなのに、なぜ、翻訳が面倒な上に声優を使わなければならず、コストが高くなる吹き替えを選んだのか。もちろん、誰もが観ることのできるテレビドラマでは、わかり易さを優先する必要があったのかもしれない。でも僕は、当時の白黒テレビ受信機では、字幕が巧く見えづらかったのが最大の原因じゃないのかと思ってる。

そんなわけで日本の初期の海外ドラマに、ボイスオーバーがつけられるようになった。これをやったのが、当時から食うに事欠いていた舞台俳優・女優たちだった、ということだ。中には生放送で、海外ドラマに吹き替えしたものが放送されるなんてことがあったという。こうして、テレビドラマは舞台劇の手法を知り尽くした役者や演出家によって日本語化され、専業の声優なんて職業が成立するようになっていった。