長らく(20年ほど)海外ドラマ漬けのテレビライフを送ってきたんだけど、その視聴の軸足が、いよいよ放送電波からネット配信に移ってきたかも、と感じている。スカパー! の海外ドラマ系チャネルやBS放送から、Hulu, Netflix, Amazon プライム・ビデオに。
私も去年ぐらいまでは、ネット配信は、放送で観れなかった番組をPCやスマホで観る、補完ツールだととらえていた。でも、この1年でネット配信でしか観られない、最新・高品位な海外ドラマがどかっと増えた。
そのうえ、Amazon Fire TVなどを介せば、AmazonだけでなくHuluもNetflixも‟簡単に”テレビに繋げて、HDや4K画質でドラマを観られる。これでネット配信は、完全に「テレビ」になる。テレビを観るとき、放送を観るか、ネット配信を観るか、フェアに選べる時代になったわけ。
で、デカいのが契約料金のインパクトだ。
衛星放送とネット配信の価格比較
以下、価格はすべて2016年4月時点・1か月あたりの料金 (税込:税率8%)
衛星放送系
- NHK-BS(年間契約の月割) ……884円
- スカパー! 基本料金+新基本パック(47チャネル) …… 計4,093円
- スカパー! 基本料金+セレクト5チャネル*1 ……計2,401円
- WOWOW ……2,484円
インターネット配信系
配信サービス3社あわせて、最大2,898円。スカパー基本パック単体より1,000円以上安い!
これで、合計2万以上のコンテンツに、最新の海外ドラマも観られるとなれば、もう衛星放送は契約せずに、ネット配信だけでもいいかな、と心が揺らいでくる。
ただまあ、スカパー!やBSでしか観られないドラマ、ドキュメンタリー、そしてBBCやCNNがある限り、そう簡単には移れないんだけど。
そして、怖いこともある。
怖いその1:結局観なくなってしまう病
ネット配信に軸足を移したときの大きな問題は、「いつでも観られる」安心感で、結局いつまでたっても観なくなってしまうことだ。現に今もそうなってる。
放送だと、特定の時間にきっちり始まりきっちり終わるし、HDDに録画していくとリストがどんどんたまって、「消化しなきゃ!」という気になってくるから、これはない。
いっぽうネット配信も、実は一部コンテンツの配信期間は有限だったりする。だからいつでも観られると安心して放置しておくと、いつのまにかまったく観られなくなってしまうことがある。これが怖い。
怖いその2:ネット配信はこんなに値崩れしていいのだろうか?
もうひとつ、これは根本的な問題だけど、ネット配信の安さが怖くなることがある。これだけのコンテンツをキープして、月額たった数百円とは……。もちろん、安い理由はインフラ面での基本的なコスト違いにあるんだろうなとは思う。想定できるコストの違いはこんな感じ。
衛星放送系
- 高額で複雑なハードウェアのシステムである放送設備と人工衛星が必要
- 放送電波は固定費。誰が観ようが観まいが、電波送信のコストはかかり続ける
インターネット配信系
上記の想定が当たってるかどうかはわからない。ただ、それにしたって安い。一番気になるのは、海外ドラマ日本語版の製作費だ。演出・翻訳・吹替えに、きちんと対価が支払われているのだろうか。
ネット配信の数万のコンテンツのほとんどは、劇場・テレビ・ビデオ向けに制作されたものの再利用で成り立っている。配給元への使用料はかかるとして、制作に関する費用では、声優や大御所の翻訳者を除いてはもともと制作時の買取契約だろうから、ネット配信でいくら再生されてもお金は落ちない。これって契約的には正当だけど、ある意味、フリーライドに見える。
それ以上に、新作の海外ドラマについても、トータルコストを抑えるため、あるいは日本オリジナルコンテンツを作るために、日本語版の制作費……演出家や、声優や、翻訳者への費用を、カットしてたりしないだろうか?
そこが最大の不安だ。そもそも外画制作は過当競争のため相当のコスト削減圧力があると伝え聞くけど、ネット配信がそれを助長してしまうと、最終的には、せっかくの高品質の海外ドラマも、低品質な日本語翻訳、低品質な演技、低品質な演出でしか観られなくなってしまう。
そうなってしまうのなら、もう少しお金を払ってもいいと思う。
余談:ネット配信の売り物はコンテンツではないのでは疑惑
もしも先のコスト想定が正しいとすると、ちょっとおもしろくなってくる。日本のネトフリ、HuluにはPPVもなく広告もないから、収益方法は会員の定額費用だけ。そのうえで「会員が観ると運用コストが上昇する」なら、利益率を上げるシンプルな方法は、契約者に放送を見せないことになる。
そして現に、『怖いその1』のように、コンテンツがあるのに観ない状況が生まれている。いつか見よう、というマインドだけで、解約をしていない。人気が出そうなタイトルが定期的に聞こえてくれば、「あ、これもいつか観よう」と思って、契約を続けるだろう。
つまるところ、ネット配信の豊富なコンテンツ、新鮮なコンテンツは実はプロモーションアイテムであって、実は「観たい」という期待感、「いつでも観れる」という安心感こそ、ネット配信の本質的な売り物・バリューではないだろうか?
もちろんでっかい見落としもあろうし、競合の存在や事業成長率をどのレベルに持って行くのかなどなど、考えればそんな単純でないことは見えてくるけど、まあマーケティングを生業にしてる者の端くれなんで、こんなことを考えてしまう。
ま、下手な考え休むに似たり。コンテンツが増えたことを純粋によろこんで、今後とも海外ドラマ漬けの生活を続けていく次第。