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Gaao Line's Web Journal: Writing about US/UK TVs, cinemas, and foods I love.

帰ってきたヒトラー: 面白いアイディアなのに、なんだか退屈に感じてしまう映画

たいへん面白いテーマで、小説の翻訳が出た時は読もう読もうと思っていたものの、結局スルーしてしまった。ごめんなさい。で、めでたく映画になったんで観たわけだけど、なんとも感想が言いづらい映画だなあ。

映画の半分は、実際にドイツじゅうでヒトラーの恰好をしたオリヴァー・スマッチが市井の人々とふれあう、ドキュメンタリーの時間に充てられている。「ヒトラー」というものに対する人々の感想で成り立っている作品なので、それに対して物語映画としての感想をかぶせるのは、ちょっとナンセンスだ。

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じゃあドキュメンタリーとしてどうかというと、作者のディレクションから誘導される感想はガッチリと決まっている。「移民問題」「右傾化」「プロパガンダの怖さ」「ドイツにとってヒトラーとは何だったのか」そんなことを考えるしかないわけで、ニュースから得られている情報を上回るような、すごい気づきが得られるわけじゃない。とても面白いアイディアなんだけど、中身は総じてとても平凡なものに感じられてしまうわけ。

平凡に感じられるのは、やっぱり絵の印象も大きいだろう。街での撮影に凝ったカメラワークは難しく、また画質も高精彩とは言えない。それからヒトラーに対する人々の反応にバラエティが少ないのも難点。退屈な画面、同じようなリアクションが繰り返されるのは辛い。それが狙いであったとしても。

ただひとつ感心したのは、最後をきっちりSF作品として締めくくった点。脚本は穴だらけなんだけど(ヒトラーがどうやって出てきたかなんて、最初に気づかないわきゃないだろ!)、フィクションだかドキュメンタリーだかどっちつかずで終わるより良かった。

そんなわけで、ちょっと残念。

 

ところで、冒頭のヒトラーを描いた映像作品のコラージュで、窓枠についた四角い汚れが後ろに立つ人のちょうど鼻の下の位置にきて、ヒトラーに見えちゃうものがあったんだけど、あれはなんて作品だろう? 同じネタをアイルランドのコメディ『ファーザー・テッド』で観たんだけど、たまたまネタかぶりしたのか、どちらかが元ネタなのか。