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セルフリッジ 英国百貨店 シーズン2感想 - 声優 唐沢潤の演技ときたら!

前世紀初頭のイギリスを舞台にした群像史劇『セルフリッジ 英国百貨店』。吹き替えで追っかけていたけど、この作品の華といえばなんといってもレディ・メイを演じる唐沢潤の演技! これにつきると思う。

男性であるセルフリッジさんを主役にしつつも、一貫して「女性の生き方」を描いていたこのドラマ。百貨店の設立と女性の権利運動を絡めて描いたシーズン1と比べると、5年後の第一次大戦勃発時を舞台にしたシーズン2では、恋愛劇の要素がより強調されたように思う。そんななかでもレディ・メイは一味違ったプロットで、勝気な貴族の彼女が人間としての弱みを見せ、それでもしぶとく復活していく。おいしい役だ。

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そんな彼女をさらに印象付けたのが、唐沢潤の作った彼女の声。いわゆる“等身大の人間を描く”声から一歩踏み出した大仰さのある演技が、ヴィクトリア時代の名残を感じさせる華やかな雰囲気を作り上げていた。言葉の終わりを延ばす特徴的な話し言葉は、お高く止まりつつも愛嬌が出ていて、「ああ、いるいるこんな感じの人!」と思える絶妙なディフォルメだ。

第1シーズンではトリックスター的な役どころも多く、踊り子エレン・ラブを演じるたかはし智秋の声とともに時代の雰囲気を盛り上げていたレディ・メイ=唐沢潤だけれど、第2シーズンでは、策謀家の夫ロックスレイ卿がロンドンに戻ったことで、窮地に追い込まれる。また、百貨店で彼女の立場を取って代わろうとするクラブの女主人デルフィーヌも現れる。ロックスレイ卿の声をあてるこねり翔は貴族の傲慢さを前に出した実にいやらしい声、デルフィーヌを演じる五十嵐麗ポリー・ウォーカーの体格にもマッチした押しの強い声。どちらもレディ・メイと正面から争うには十分。特にデルフィーヌとレディ・メイの終盤の“女の戦い”は、観ていてワクワクしてくる極上の掛け合い! 素晴らしかった。

それ以上に印象的だったのは、ロックスレイのDVや策謀についてゆけず、家を離れる展開の中で見せた彼女の弱さの表現だ。あるシーンで、彼女は昔の劇団を思い出すことになる。そこでの彼女は、口調まで踊り子時代のはすっぱさを含んだ声に変わってしまう。見事な転換だった。彼女のどん底であり、反撃が始まるターニングポイントとなるこのシーンでの演技があったからこそ、ロックスレイをやりこめ、最後のデルフィーヌとの対決で完全復活する彼女の声に、歓びが感じられる。    

最近は吹き替えというと『コマンドー』とか『ダイ・ハード』とか、80~90年代の洋画黄金期の作品ばかりが注目されるけれど、最近の低予算であえぐテレビシリーズの中でも、びしっと筋を通した演技が観られる。唐沢潤の演技はまさにそれで、セルフリッジのドラマを、より豊穣なものにしていたと思う。

余談 

唐沢潤はほぼ同時期に放送されている『コペンハーゲン 首相の決断』で、主役ビアギッテ・ニュボー首相も演じている。こちらは声のトーンを一段下げ、政治家としての重み、母親としての弱さを十二分に表現した演技が楽しめる。特に第2シーズンでの、娘役と母親の「泣き」の演技の対比は、強い印象を残した。

余談その2

『セルフリッジ』のほかのキャストも要所々々で力の入った演技を見せてくれる。どちらかといえば嫌われ者役のほうが、印象に残る。人事部長ロジャー・グローヴ(綿貫竜之介)のマーデルへの悔恨の言葉、第1シーズンから恋敵役だったヴィクター・コレアノの最後の告白など、聴きごたえがあった。個人的にレディ・メイに匹敵する個性をだしたのが、衣料部長サッカレイの嫌味な声だけど、こちらは声の出演がクレジットされていなくてわからないのが残念。ほかのキャストとの兼務だとは思うけど。

 

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