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Gaaoline's Web Journal: Writing about US/UK TVs, cinemas, and foods I love.

映画『ウィンストン・チャーチル』見せたいものは何だったのかというはなし。

2018年度作品賞ノミネートの1作『ウィンストン・チャーチル / ヒトラーから世界を救った男』。観終わってみれば、なんともちぐはぐだったなあ、という思いが残る。あの演説で、すごく感動したかったのに、うまく感動できなかった。なんでだろう?

 

f:id:debabocho:20180331215127j:plain原題 Darkest Hour の指し示す通り、本作はフランスがナチスドイツに大敗して始まる英国の最悪の時期に首相となった彼が、自らの心の闇を払い、ダンケルクの演説に至るまでの1か月あまりを描く。

有能な政治家とはいえ失敗も重ね、回りは与党も野党も敵だらけ。さらに全体主義への徹底抗戦の意志をくじくがごとく、欧州大陸で最悪の事態が始まる。その瞬間、彼が何を思い、何を知り、何を決断して、あの大演説に至ったか……。そりゃあドラマだ。

ところが、実際盛り上がるはずなのに、なぜか心がついていかない。

シーンは良いのに物語にならない

シーンのひとつひとつはどれも良い。チャーチルの強さ、傲慢さ、繊細さ、小心さ、やさしさ、無神経さ……。演じるゲイリー・オールドマンの徹底したキャラづくりで、彼のいろんな側面が見えてくる。のしかかる状況の描写も巧い。ルーズベルト大統領との電話で、チャーチルが夜中に英国の現実を独り噛み締めるシーンは、実に見事だった。

でも、それが全体の物語としてうまく噛み合っているかというと、率直に、疑問だ。男の3週間にわたる感情の動きを追う、1本のうねりを伴った物語として、各シーンが繋がってこない。良質ではあるが、伝記の再現ドラマをバラバラとコラージュしただけのようだ。

じゃあ、バラバラであるがゆえにチャーチルの全体像が伝わってきたか、というと、そういうわけでもない。物語の葛藤をチェンバレンら対独融和勢力との対立に置いているんだけど、それを見せようとするあまりか、一貫して彼が不器用で頑固な傍流政治家に見えてくる。本来あったはずの異能にして有能な彼の姿はどこいったんだ。見えてくるのはオールドマンの演技、表現の巧みさであって、一人の歴史上の人物の表現としては、なにか欠けていたような気がする。

人物が伝わってこないといえば、国王ジョージ6世もだ。彼は物語上チャーチルをクライマックスへと導くキーマンなのに、彼の心が最後にどう動いたのか、それが明快に伝わってこないから、物語のターニングポイントに合理性を伴った重みが感じられない。

物語をつなぎとめたもの

ただ、そんなちぐはぐなシーンの連続も、所々で入る、ある特徴的なカットのおかげで救われている。ひとつは、自動車に乗ったチャーチルの視点という形で写される、様々なロンドン市民の横顔。長いパン撮影で、当世の人々の生活を細やかに映し出していく。もうひとつは、飛行機からの視点、神の視点で、地上を動く難民や兵士を映し出していく、同じく長いカット。

常にチャーチルの近辺5mの会話を映し続ける映画が、このカットだけ、声を排し、世界を映し出す。そしてラスト直前、チャーチルが、今まで眺めるだけだった「人々」と接することで、彼は葛藤を乗り越えるのだ。特殊メイクと迫真の演技だけではない、この手法こそが、映画を1本の映画たらしめる鍵だったと思う。

 

やりたいことはすごくわかる。すべてがぴたりとハマれば、最後の演説はものすごい大感動になっていたろう。だけど、あと1歩、自分の心がそこに向かわなかった。

結局何だったんだろうと思うと、ゲイリー・オールドマンの演技が、勝ちすぎていたんじゃなかろうか。特殊メイクで、彼はチャーチルというキャラになりきろうとした。そんな彼の演技を見せたいがために作られたシーンの連続は、結果的に、チャーチルという人間を表現しきれなかった。そう思う。

 

さいごに。もしこの映画がNetflixで配信されることがあるなら、劇が終わって暗転したらすぐに『ダンケルク』につながるようにしてあげてください。歴史劇の最高の楽しみかただと思う。