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farsite / 圏外日誌

Gaaoline's Web Journal: Writing about US/UK TVs, cinemas, and foods I love.

ガールズ&パンツァー 劇場版 - 映画感想:緻密なハリウッド的アクションの極致

あらすじ

現実とは少し違う世界。第二次大戦後、日本では学園と都市機能を備えた巨大な艦艇が幾隻も建造され、多くの子らがそこで学んでいた。いっぽう戦争の道具であった戦車は、戦後“戦車道”という武芸として世界的に地位を獲得、国土に広がる多数の原野や廃墟、また市街地で、スポーツとしての戦闘が行われるようになっていた。

……とちょっとSFっぽく書こうと思ったけどやめた。とにかく、男性向けアニメの定石通り「かわいい女の子がいーっぱい」出てきて、彼女らが戦車に乗って知力と体力の限りを賭けて戦車試合をする。どんなに危ないことしても命は安全、怪我もしない。よし!

感想

見たいものを見せましょう

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ニュースチャネルで流れている中東の戦争を横目に、戦車のプラモデルを組んでいれば、矛盾してるなあ、この趣味、と思うことはある。戦争で無益に人の命が失われるのはいやだ。でもそこに見える兵器はカッコいい。この乖離。ナイーブに思いを巡らせる年齢でもなくなってしまったので、結局、テレビの向こうの死への思いは忘れずともひと時心の奥に封印し、ときおりふと、「あーあ、ひとの死なない戦争があればなあ」と馬鹿みたいに思いながら模型を作っている。

「ひとの死なない戦争」を一応なりとも実現してきたのが、映画、ハリウッド産業だった。虚構のなかで戦争・殺人を扱い、ヒロイズムで飾る。悪役テロリストは躊躇なくカッコいい銃で撃ち殺し、倫理的葛藤は皆無。ハリアーが空を飛び、核爆発が起こる。たとえシリアスでハードなテーマであっても、これは演技だ、という無意識の枷があるから、安心して想いを巡らせることができる。

そんな枠組みのなかに、斜め後ろから殴り込みをかけてきたのが『ガールズ&パンツァー』だった。もはや殺し合いですらない。血の一滴も流れない。アニメというメディアの特性をフルに活かした虚構の中で、戦車とそれに乗る高校生たちが、活き活きと戦う。ハリウッドの映画産業が積み重ねてきたエンタテインメント・アクションの肝、「見たいものを見せましょう」の極北に、このアニメはあるんじゃなかろうか。むしろ最初から人が死なない設定にしてしまったぶん、倫理的に潔い。それで同じアクションの興奮が味わえるのだから。

良質なハリウッド・アクション

「見たいものを見せましょう」は、もうちょっと言えば「見たいものを“見たこともないやりかたで”見せましょう」だと思ってる。この映画を観て真っ先に思い出したのは、直前に観た『ジョン・ウィック』と、少し前の『ワイルド・スピード』だった。

前者はガン・アクションでとにかくキアヌ・リーブスがカッコいい映画。後者は超絶馬鹿機動カー・アクション。3者に言えるのは、ものすごく緻密に計算されたアクションで、これまで見たことのないような絵をみせてくれること。舞台の設定のしかた、アクションの連続性に画面の構築、カットのつなぎ方。キャラクターのセリフの挟み方、しぐさ一つ一つが、緻密で、リアルで、活き活きして、画面に吸い込まれるように見入ってしまう。そして、感動できる。

そう、感動しちゃうのだ。ものすごいアクションのあとには、深い充足感、感動がある。アクションに時間を割いた分ストーリーがシンプルになりがちだけど、だからこそ、ある意味骨太な感動がやってくる。

アニメならではの辛さ

ふだん日本のアニメを(富野かんとくの作品を除いては)あまり観ないので、正直抵抗と言うか、表現として理解の難しいところはこの映画にもある。例えば中盤の入浴シーンなんか、まさに「アニメの女の子はファンサービスで肌を見せるもの」というお約束を地で行っているし、主人公のライバルも、「無口な少女」というアニメ的な人物造形が立ちすぎたためか、中盤の出会いのシーンがあまり意味をなす劇になっていなかったと感じた(ここで確立すべきライバルの戦いへの動機づけが弱く、物語上の意味も薄い)。それに、オリジナルのテレビシリーズを観ていないと共感が得られない部分があり、完全なパッケージになっていない。

ただ、そういうお約束芸は当然米国の大作映画やドラマでもあるわけで、例えば最近のマーベルユニバースシリーズなんかまさにこんな感じだ*1。見せたい場面を多少のムリを承知で繋ぎました、という作りかたは多い。

抑えられないワクワク感

要は、そんな欠点に思える部分を乗り越える魅力があればいいのだ。この映画は、ものすごい剛腕でストーリーすらそぎ落とし、アニメの文法の上にリアルな(現実的という意味でなく、表現に説得力がある)戦車アクションを乗っけた。履帯(キャタピラ)で動くマシーンの重量感、機動性をみっしりと与えられた戦車たちが、街で、フィールドで、廃墟で、縦横無尽に動き、撃ち、暴れまわる。地形や機体の特徴を存分に生かしたアクションが積み重ねられる。口の中がよだれでいっぱいになるワクワク感と、シンプルな充足感が得られる。とにかく魅力的な映画だった。なにしろ楽しすぎて翌日模型屋さんに走り、プラモ買って作っちゃうぐらい。

ああ、作っちゃったよBT-42! 映画の中ではほんとカッコいいんだから!

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制作記録はこちら

 

 

*1:『アヴェンジャーズ2』なんかその最たる例だと思う。あれはシーンもセリフの繋がりも空中分解気味で、字幕翻訳がすごく苦労していそうだった。