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Law & Order シーズン1 - 海外ドラマ全話レビュー

Twitterを使った『ロー&オーダー』おおよそ140文字エピソードガイド&感想、第1シーズン。

あらすじ

1989年、ニューヨーク。80年代を通して犯罪都市と呼ばれたこの街は、徐々にその影の時代から脱しつつあった。マンハッタンのダウンタウンからミッドタウンにかけてを管轄とするニューヨーク市警27分署殺人課の刑事、マックス・グリービーとマイク・ローガンは、ドナルド・クレイゲン警部のもと、いまだ止まない様々な凶悪犯罪に取り組んでいく。

ニューヨーク市警によって逮捕された凶悪事件の容疑者は、アダム・シフ地方検事の率いるニューヨーク群地方検事局によって起訴され、市の高位裁判所で裁かれる。27分署の事件を担当するのは、主席検事補(日本で言う次長検事)のベンジャミン・ストーンと、彼を補佐するポール・ロビネット検事補だ。彼らは犯罪に背後にある人種差別などの様々な社会不正を暴き、また葛藤しながら、正義を追求していく。

レビューリンク

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エピソードレビュー

1-1『消された運び屋』

襲撃された市議にあった犯罪歴。組織犯罪網がNYの上位層にまで根を張り、それに対峙する困難さを人種問題まで絡め描く。パイロット版でこなれていない感もあるが、映画並みの密度。見せたいものは全て見せようという気概が感じられる充実の第1回。★★★★

1-2『死の処方』

医療過誤もの。非難されがちな医師のモラルを警察官のそれと照らし合わせながら進む捜査編は、良いセリフのやり取りで説得力がある。裁判編は明確な悪を見据えた追及劇。クライマックスの尋問はパンチが利いてる。今見るとゲスト出演者も非常に豪華。★★★★

 1-3『隠された過去』

絡んだ不良黒人を撃った白人女性は、過去にも黒人に襲わていた。初期の名物弁護士グリーンが登場し、人種問題を絡め正義のあり方をキャラがそれぞれの立場で語り、悩む。刑事の所作から法廷の空気まで、一つの事件の経過がとても丁寧に描かれている。★★★★★

1-4『死神の使い』

強盗殺人はエイズに苦しむ被害者自身が依頼した自殺ほう助だった。連続性があり模倣犯まで生む慈悲殺を、社会派どこまで許容すべきなのか? 珍しく気弱に揺れるストーン検事補。マッコイなら有罪にしそうな事件だが、社会評価が定まってなかったのか。★★★

1-5『死に至るキス』

セックス中に女性の喉を切る猟奇犯。被害者をベッドに誘ったのは誰だ? 被害者の淫乱さが問題であるかのように言われる二重の暴力。女性だけに強いられる「貞淑」という名の差別にどう抗うかが見どころ。女性判事による法の論理も聞きごたえあり。★★★

1-6『冤罪』

貧民街で撃たれた裕福な白人。逮捕された犯罪歴のある黒人。グレイビー刑事は彼の逮捕に疑念を持ち……。刑事たちの冤罪への葛藤が薄いまま後半の色恋沙汰が絡む謎解きに入ってしまう。裏には裏があるという展開だけど、会話劇はどうにも間延びした印象。 ★★

1-7『執念の追及』

パンツをうしろまえに履いて発見された被害者。不可解な事件の追跡はいつしか大規模な売春の実態に切り込んでいく。権力層との繋がりや当時のHIV問題など、売春の様々な問題点を見せる。捜査編も法廷編も密度が濃く、ハードボイルドな展開が楽しい。 ★★★★

1-8『堕ちたヒーロー』

白人警官の過剰な行動が黒人を殺す。警察の矜持と暴力性、鬱屈した人種観。黒人コミュニティの反応、貧しくも優秀な黒人とドラッグ問題。人種問題のあらゆる要素を盛り込んだシリーズの雛形のようなエピ。グリービー警部の台詞が物語を綺麗に締める。★★★★

1-9『親失格』

実在のスタインバーグ虐待事件をモデルに、虐待の連鎖を描く。加害者であり被害者でもある母親の存在感は秀逸だが、ちょっとやりすぎ感も。初期シーズンは刑事編もモラルで悩む描写が多く、会話劇に見応えがある。★★★★

1-10『愛の虜』

金持ち共の異常な秘密。退廃した変態性欲趣味を陳列するコミカルさと、宗教的倫理感のシリアスさのさじ加減がうまい。後半の権力による罪の隠ぺいとの対峙も、後々の類似エピと比して上出来。同性愛に対するセンシティブさが微妙に足りないのは時代か。 ★★★★

1-11『終わらない憎しみ』

白人警官にレイプされたと言う黒人の少女。信ぴょう性を求める刑事たちの前に立ちふさがる黒人議員。人種平等という正義を求めるが故に、目前の小さな正義が失われていく。この葛藤が、唯一の黒人キャスト、ルビネット検事補の熱弁に集約する。★★★★

1-12『生命の行方』

産婦人科を爆破した中絶反対派を追う。刑事どうしのぶつかり合いや被害者側の家族の抱える問題など、会話劇が濃く非常に長く感じられた。なによりこの問題、20年続くシリーズ後半も全く同じ構図で題材となっているのが、根の深さを感じさせる。★★★★

1-13『もうひとつの顔』

警官を射殺した犯人を追う。仲間を失った刑事、そしてパートナー警官の葛藤が焦点。法廷編も法廷外での真実の追及に充てられ、その物語は隠された警官の不正を告発する大陪審弁論で終わるが、それが結果的に警官賛歌にもなっているのがニクい。★★★★

1-14『レイプの真相』

通常と異なり前半が法廷編、後半の刑事編で真相が明らかになる。報道被害や催眠術を使った尋問、証拠紛失など、コネタやアクシデントが次々と繰り出され可笑しさすら感じるが、案外現実だってそんなものかもしれない。今観ると脇役がやたら豪華! ★★★★

1-15『欲望の奔流(前編)』

マフィアのマスーチ一家との対決を前後編で描く。雑貨屋店主の殺人が巨大な脱税ビジネスへと繋がり、複雑な裁判が始まる。展開は極めてオーソドックス。それでもきちんと捜査>法廷>結審のフォーマットが守られているのがすごい。★★★

 1-16『欲望の本流(後編)』

前回の事件のあらましと関係者を見せるオープニングが特別な雰囲気でカッコいい! で、警察・検察入り混じってマスーチを追いかけていく。ただ、「追い詰める」といった感はなく、ラストはあっけない幕切れ。前後編でこれはちょっと虚しい。★★★

 1-17『ゲーム・マスター』

乳児を銃殺した容疑者は、黒人スラムの少年ギャングたち。子が子を殺す異常世界と、富める者の傲慢の対比が強烈な印象を残す。冒頭から殺伐と雰囲気が流れ続け、法廷で再び示される究極の貧困には息をのむ。S.E.マーカーソンの演技も傑出。★★★★★

1-18『報復と制裁』

ラティーノ社会で起きた殺人、動機は報復かカネか? 裁判編には名テレビ俳優J.D.キャノンが登場、テキサス流の弁護で、徐々に報復が正義とされていき、法治か人治かが問われる。冒頭の「死体から落ちた拳銃」が最後にどう焦点となるのかも見もの。★★★

1-19『闇に光る牙』

金持ち一家殺人事件。刑事編で逮捕した被疑者の容疑が法廷編で早々にひっくり返り、ぜんぜん違う真犯人が出てくるパターン。2本の別の推理劇を見てるようなもんで、片方はまるっとミスリード。何のための刑事編だったんだという気になる。★★

1-20『テロリストの悲劇』

IRAや西独左派などほとんど歴史的なテロ組織がリアルだった時代の物語。市警とFBIのコミカルな縄張り争いから始まる捜査は次第に重くなり、今と変わらぬテロ犯罪の本質を見せつける。組織のいがみ合いへの強烈な皮肉になるラストも見事。★★★★

1-21『愛情とエゴイズム』

都市伝説のはずの臓器泥棒が実際に起こる。足で稼ぐタイプの捜査をじっくり見せる刑事編のあとに来る法廷編は、生体肝移植をめぐる究極の倫理の議論。「子供のためなら殺人も厭わない」は善なのか? こちらもじっくりと聴き入ることができる。★★★★

 1-22『汚れた手』

シーズン最終話は殺人ではなく経済犯罪と警察汚職、容疑者はクレイゲン警部。主要キャラ同士の会話劇がメインだけれど、単純に「俺たちは警部を信じてる!」とはならず、身内を疑う辛さ、厭らしさといったリアルな心情が最後までこってりと描かれる。★★★★

メモ

1-3話:会話中に触れられた事件 (1)セルマ事件:1965年アラバマ州公民権デモを鎮圧する白人警官から親を守ろうとした黒人青年が、警官の発砲で死亡した事件。追悼デモが更に鎮圧され、血の日曜日事件とも。 (2)ハワードビーチ事件:1986年NY市、黒人がイタリア人系の店で白人に取り囲まれ、逃げる途中に交通事故死。取り囲んだ男たちは軽罪にしか問われず、のちに黒人社会の要求で殺人罪を問う裁判が起こされた。

まとめ

総ポイント数

81 / 110

平均

3.68

シーズン1 感想

今後20年間を形作る第1シーズンだけに、点数づけも平均的な結果になるように意識してしまったのか、結果確かに★5点も少なければ★2点も少ないという評価になってしまった。ただ、事実として差別問題・中絶問題・レイプ・宗教・テロ・痴情のもつれと、今後のエピの骨格となるテーマがそうそうに出そろって、どれも楽しめるものになっている。もしも自分がこの長大なシリーズを第1シーズンから観始めていたら、評価はもっと上がり、相対的に後のシーズンの評価はさがってただろう。

感想をまとめて読み直してみると、“捜査-裁判”というシナリオの流れに変化球を加えたり、前後編エピをやってみたり、殺人以外の事件をテーマにしたりと、初期ゆえの試行錯誤がうかがえる。また、テーマとしては思った以上に人種差別、それも「黒人対白人」の図式のものが多い。アジア人やラティーノといった比較的新しい人種差別に焦点を当てるよりも、80年代までの伝統的な差別問題をきちんと掬いあげる必要があったのかと思う。なにしろ、1990年当時はこういった社会派ドラマの形式が立ち上がったばかりだったのだから。

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