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Gaao Line's Web Journal: Writing about US/UK TVs, cinemas, and foods I love.

映画『ローガン』:殺しすぎではという話。

2000年から続いたX-メンシリーズ*1。その事実上の締めくくりとなる作品が、まさかの外伝だと思ってたこの『ローガン』。とにかく泣けるわけだ。あらゆるシチュエーションが。

あらすじ

時に2024年。21世紀初頭のミュータントの発生はすでに過去のものとなり、世界は平穏を取り戻していた。進化した人たるミュータントの力を借りずとも、テクノロジーの進歩は社会の効率化を進め、人々を健康にしていく……。だが、理想社会の陰には取り残された多数の人々がいた。彼らに紛れてひっそりと生きるローガンのもとに、ひとりの男が現れる。

感想

かつての活躍を忘れ、孤独に人生をすり減らせるだけのヒーロー。そんな彼らが得たひと時の家族ごっこ。虐げられた子供たちと、子供たちを命を張って守った普通の人々。子供たちだけのコミューン。そして、Xの字に託されたミュータントの存在意義の再確認。胸を詰まらせるシチュエーションを、よくもこれだけそろえたものだと思う。

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虐げられた人々が、見知らぬ支援者の手を借りて北に逃げる。この構造って南部の奴隷黒人を北部に逃がした「地下鉄道」*2を思い出すわけで、これは鉄板というか、これを想っただけで泣けてくる。『シェーン』へのオマージュを込めた力強いメッセージだってそうだろう。人は変われないかもしれないけど、誰かを変えることはできる。

引き込まれて、何度か涙を流した、思い出深い作品となった。

ただ同時に、ちょっとやりすぎじゃないかと、一歩引いて観ていたりもする。

 

良くできたアクション映画だと、凝ったアクションが釣瓶打ちになりすぎて、逆に単調に感じてしまうことがある。それと同じことが、『ローガン』では“泣き”で起きている。なにしろ死ぬのだ。「敵を殺す」ことに意味を持たせたという点もそうだけれど、味方が死ぬ。とにかく死ぬ。その死の度に、その世界で生きたキャラの苦難や幸福を考え、泣かねばならない。ちょっとしんどいのだ。

偉大な人物の、あまりに唐突で凡庸な死。死して細胞まで使われる者。ただそこにいただけなのに殺されてしまう普通の人々。そして自己犠牲。

そんなに殺して、よかったの? そうまでしないと、あの感動は作れなかったの? そうも思ってしまったわけ。物語に結末をつけるためだけに、ひとりひとりの命の重みが軽くなっているような……。

シリーズのなかでも例外的な作品であり、傑作であることは間違いない。でも、どこか腑に落ちなさの残る映画だった。

ディストピア映画としての完成度

そんな腑に落ちなさはよそに、意外と良いさじ加減だなと思ったのが、この近未来の地球のディストピア描写。無人トラックはシンプルなアイディアだけどこうくるか! という形状で、虚を突かれたうまいアイテム。企業進出の進む米国中部の農村地帯とそこに住む人々の貧困をうまく描きだし、最後に意外な陰謀(これはむしろX-ファイル並みの巨大な陰謀だ!)につなげて見せる。まあそんな陰謀論も話の邪魔だと言わんばかりに、語ったキャラも殺されるのだけど。

現在の技術の延長線上で見せるリアリティのある未来世界にほんの少しウソを忍び込ませた、住人たちがディストピアと実感しない程度のディストピア。この設定も、一度切りで終わってしまうのは少しもったいない気がするな……。 

更に余談

配役面で嬉しかったのが、久々に見たエリク・ラ・サルの姿。ERのベントン先生だけど、冒頭のクレジットに名前が出るくらいがっつり出るキャラだ。

パトリック・スチュワートはすごく気持ちよさそうに演技をしている。序盤の状況を活かした舞台劇風の声を高らかとあげる演技と、後半の抑制的な、語りかけるような演技、両面の味わえる。妙な言い方だけど、この映画での演技は、プロフェッサーXというよりパトリック・スチュワートそのものだ。

くすっと来たのは、最悪のシーンの直後、手の振り下ろしどころがなくなって車に八つ当たりしまくるローガンと、川の向こうの平和な釣り親父との対比を冷静に見つめるローラ。こういう最悪を笑いに変えるの、ほんと巧いなあと思う。

SFX・VFXの表現も良かった。具体的にはローガンの肉体だ。上半身にばかり筋肉が残り、足が衰えつつある日常の姿。また戦闘の状況や薬の効果によって筋肉の量が目まぐるしく変化し、肉体そのものが、ローガンの心を物語っているようだった。CGIがキャラの気持ちまで表現する。まさに真骨頂だ。

*1:何ユニバースというのかまでは興味がないけど、プロフェッサーXをパトリック・スチュワートが演じるシリーズ

*2:地下鉄道 (秘密結社) - Wikipedia