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farsite / 圏外日誌

Gaaoline's Web Journal: Writing about US/UK TVs, cinemas, and foods I love.

『海にかかる霧』映画レビュー: これぞ韓国映画!

映画 ジャンル:サスペンス ジャンル:社会派

韓国でタイタニックを作ると、こうなる。

あらすじ

1998年、全羅南道麗水市。不景気に喘ぐ漁師町では、密輸・密入国ビジネスが蔓延していた。かつてはアンコウ漁で鳴らしたカン・チョルジュ船長も、船と船員の暮らしを守るため、密入国に関わることとなる。豪雨のなか中国船から乗り移った数十名の朝鮮族を魚槽に隠し、船は霧に囲まれていく……。

劇場戦略

偉大なるポン・ジュノせんせいがプロデュースに回り、予告編からも不穏さがビンビン伝わる本作。日本でも東宝の全国公開なんだけれど、都内の上映館は3館、それも新宿を除いて朝イチみたいなヘンな時間にしかやってない。単館系扱いのウディ・アレン映画のほうがよっぽど館が多いという、ヘンな興行になっている。

f:id:debabocho:20150510201710j:plainこれもあたらしい新宿シネコンに呼び込む戦術か、シネコン支配の弊害なのかとイライラしてたものの、実際映画館に行ってみるともうすこし事情が見えてきた。この映画、パク・ユチョンが出演するため、圧倒的に固定ファンが多いのだ。

どーー考えたって胸糞わるくなる内容なのに、彼女らはユチョンのために来てくれる。劇場の位置や上映時間などの変数を気にしなくても、ファンの数から、興行成績を相当硬く見積もれるというわけ。

だったら、上映館も時間も絞って上映1回あたりの稼働率を上げ、空いた館・時間は別の映画で稼ぐというやりかたもできる。現に新宿は朝9時半の回なのに、ほぼ満席。すごい。ふだんはガラガラのこの時間にこれだけ稼げて、都内東宝稼働率向上にずいぶん寄与したことだろう。完全に作戦勝ちだ。

感想

で、内容はいつものポン・ジュノせんせいでした。漁船の密室空間でおこる惨劇、そして登場人物がどんどん狂っていき、人間の持つ本性が明らかになっていく。船という王国の王たる権力に固執する船長、真面目で従順であるがゆえに静かに狂っていく甲板長、性欲だけに突き動かされる三下船員……。冒頭で緻密に描かれた一種牧歌的な漁民の日常が、終盤の圧倒的な異常空間と見事な対比となっている。

自国の近代化の裏にある、顔をそむけたくなるような暗部を描き出し、エンタテインメントに昇華させる韓国映画のちからには、毎回圧倒させられる。同時に驚くのは、作中に立ち上るキリスト教の存在だ。今回印象的だったのは、終盤、狂った船長が巨大な更迭の錨を担ぐシーン。十字架を背負うキリストのイメージに重なる。

狂人と化した彼とて、本来は自らの暮らしを守ろうとする善人だったのだ。彼は、当代韓国の暗部が生み出したあらゆる罪と俗悪を、背負わされた存在と言える。『チェイサー』でもそうだったけれど、日本と韓国の近代文化で差がもっとも出るのは、儒教でなくこのキリスト教の浸透度だと思う。

 

そしてラスト。これだけの地獄を描き通して訪れるエピローグは、一種のコメディだ。虚無感に満ちた結末も韓国映画の特徴のひとつだけど、今作のユチョンのかわいらしくも間抜けな顔で終わる物語は、これもまた、女性ファンの感情を考えたマーケティングなのかもしれない。なんだかんだで、女は強い、というメッセージが最後に残るのだから。