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映画『ウォー・マシーン 戦争は話術だ!』 - 「情けない」おはなし

観終わって、なるほどと感心した。こういう映画はNetflixだからこそできたのかもしれない。ド派手なブロックバスターとも、単館系の物語映画とも、あるいはテレビサイズのドキュメンタリーとも違った、特異な手触りだ。

あらすじ

部下からの信頼も厚いアメリカ陸軍マクマホン大将は、泥沼化したアフガニスタン紛争で「勝利」を収めるため、現地に赴く。自分の手で実電できる範囲の勝利を自分自身で定義し、その実現のための手段を練る将軍。彼の試みは、成功するのか?

配信

ノンフィクションの手触り

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最近読んだ本に、『アシュリーの戦争』という米国作家のノンフィクションがある。米軍初の女性特殊部隊が、どう構築され、アフガンの戦場でどう戦ったかを、綿密な取材を重ねたうえでひとつの物語のように書き上げた本だ。その結末はつらいもので、どっしりと思い感動が心に残る。それは「泣かせ」じゃない。個人の感情の話に走らず、組織や状況がなぜ、どのように作られ、どのような結果になったかを、ノンフィクション特有のドライな筆致で積み上げていく。その結果として、ある暗い理解をもたらす。

本作にも、このノンフィクションとそっくりの手触りを感じた。

映画の原作『ザ・オペレーターズ』は、ジャーナリスト、マイケル・ヘイスティングがローリング・ストーン誌に発表した、陸軍大将スタンリー・マクリスタルの密着取材記事を書籍にまとめたもの。『ウォー・マシーン』は架空の物語となっているけれど、ノンフィクション本の雰囲気をそのまま映像化したんだと感じられる。

 

この映画はドライだ。序盤で観る側の感情をコントロールする物語の起伏もなく、つらつらと将軍と仲間たちの行動が描かれていく。ブラッド・ピットの演技は少し浮世離れしたところがあり、そこもまた、感情移入を拒む。

コメディのジャンルにカテゴライズされている本作だけれど、その枠に入るものか、正直自信がない。風刺的な映画だが、個別の状況をことさら明示的に批判していない。音楽やセリフで「これは愚行ですよ」と強調しない。ただ将軍と仲間たちの行為が流れてゆく。その流れ全体から、不穏さ、愚かさが滲み出ている。

もちろんエンタメ映画だから、終盤にはある程度分かりやすく演出されたクライマックスがある。ティルダ・スウィントンが演じるドイツ人政治家が(この人ほんと誰にでもなれるな)、彼の一連の作戦の問題を鋭く指摘するシーンは、アフガニスタン戦争における状況全体の何が問題なのかを見事に表している。それは、米軍が問題解決という名のビジネスのロジックで戦争をしていることだ。正義と人道の実現のための戦争の中身は、乾いたビジネススキームの積み重ねだ。その枠の中で、人は成功を求めてしまう。

 

映画は、そのビジネスの失敗の物語だ。成功も栄光も、一瞬たりとも出てこない。マクマホン将軍とアフガニスタン紛争は、ただただ、失敗していく。さらに、その失敗が繰り返されていく。そこに怒りを感じるか? 悲しみを感じるか? 自分に残ったのは、なんというか、情けないなあ、という感情だった。『ウォー・マシーン』は、そんな感情を与えてくれる、稀有な映画だ。

マイケル・ヘイスティング

もうひとつ、この映画は作るに値する理由があったと思う。映画の原作『ザ・オペレーター』を上梓したマイケル・ヘイスティングは、その後も米国連邦政府に対する批判的な取材記事を出し続けていたが、2013年に交通事故を起こし、33歳の若さで亡くなっている。この事故は夜明け前の時間帯に彼の運転する自動車が最高速度で並木に激突するというもので、その状況から陰謀説が囁かれている。

ドラマチックな陰謀説にはあまり与したくないけれど、あまりの若さで世を去ったこの作家の業績は、広く伝えられるべきだろう。自国の暗部を明らかにし、国をより良いものにする機会を作ろうという彼の意思が、映像作品として常に手の届くところに置かれる意義は深いんじゃなかろうか。