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Gaao Line's Web Journal: Writing about US/UK TVs, cinemas, and foods I love.

映画感想『悪いやつら』 ほんとうに悪いだけの、素晴らしい映画

 

韓国のやくざ映画。90年代という意外なほど近い時代、釜山で、やくざが生きる風景を描く。もうこれぞ韓国映画! といった暴力映画。

“良さ”がないやつ

まあヘンな映画といえばヘンな映画なんだ。全編ずーっとダラダラ、やくざと、やくざになり切れない小悪い主人公の人生を、現代に至るまで20年分ぐらい描くわけ。賄賂を受け取る程度のしがない関税職員が、血縁で知り合った暴力団(韓国語では“カンペ”。釜山訛りでの呼び方は知らんけど)のボスと懇ろになり、でもやくざにはなり切れず、警察・検察とほんまもんの悪党との間を縫って、ドジョウのように泥を吸いながら生きていく。

ちっともカッコよくなく、魂の交流や永遠の友情みたいなものもなく、悲劇も哀愁も生まれない。主人公はよく殴られ、本物のやくざに怯える。でもその場をウソと哀願で切り抜ければ、誰かをだまし、利用し、脅し、またウソをつき、裏切り、逃げて……、ズルく、ズルく、生きていく。

容赦ない情けなさ

もちろんハードな暴力も出てくる。相手を鉄パイプでボコボコにするようなイヤーな暴力だ。しかし、映画の中でヒトは誰も殺されない。主人公はただ暴力をふるわれ、また暴力をけしかけ傍観するだけ。なぜなら命の取り合いというシーンが出た瞬間、そこに一線を超えた緊張感、美学、感動が生まれてしまうから。そんなカッコいいものが絡む隙は一部もないのだ。彼の人生、この映画に。

その象徴のように、たった1丁出てくる、日本の暴力団と盃を交わした際にもらった拳銃。それには、弾が入ってない。最後の決着をつけるシーンで、彼は見せかけの銃を抜き、まるで子供のケンカのように、銃底でポコポコ相手を殴る。

ただ、悪いだけ。情けない人生だ。 

この情けなさを、物語としてさらけ出せるから、韓国映画は面白い。やすっぽい人生を本当にやすっぽく描くから、逆に、感動のゴリ押しのような映画的やすっぽさを微塵も感じさせない。そこが面白さを形作るキモだ思う。

 

安企をどう訳すか

字幕翻訳はお名前が出なかったけど、固有名詞などすこし訳し方が変わっていて、たとえば韓国の国家安全企画部(安企部・いまの国情院)を「情報機関」と訳すのは、少なくともやくざのコンテキストとしては珍しい。

こういうの、「公安」にしちゃったほうが、まあ乱暴だけど意味は掴みやすいんじゃないかと思ったんだけど、やっぱり固有名の流用は日本語版制作のポリシーに反するんだろうな。