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Gaao Line's Web Journal: Writing about US/UK TVs, cinemas, and foods I love.

ロケットと公民権

土曜日の朝。観る番組もないからとHuluライブでCNNをつけると、全米各地でデモが始まろうとしていた。

ミネアポリスでの警官によるジョージ・フロイド氏の不当な拘束・殺害により、昨日、ミネアポリスでは大きなデモと暴動が起きた。そして2日目の夜が来ようとしている。CNNでは警官と市民との小競り合いが始まったことを伝えている。しかしその場所はニューヨークシティ、ブルックリンだった。アトランタ、ワシントンでもデモ行進が始まり、小競り合いがあるようだ。

映像を見る限り、人種差別に反対するメッセージを掲げてはいるが、参加している人種、年齢は多様だ。白人も黒人も入り混じって、警官と小競り合いをしている。ミネアポリスではすでに夜間外出禁止令が出ており、対抗する市民は道に跪き、ガス弾を持つ警官と対峙している。

デモがどこまで広がるのか、そのうちいくつが暴動になるのかはわからない。ただ、暴動は少なくあってほしいと思うし、それは暴動の原因となる問題を取り除いてほしいということだ。

 

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パンデミック対策のロックダウンによって人々が受けた有形無形のプレッシャーも、このデモを加速させたのかもしれないと思う。単に「外に出て不満をぶつけたい」というだけではなく、パンデミックによってもたらされた10万の犠牲者が貧困層に偏っていることや、その現実を直視せず一層反動的になった現政権の言動への苛立ちが、いまの状況を作ったのだろう。

何であれ、ニューヨークでもワシントンでも、明確な首謀者も方向性もないまま、人々はぼんやりと集まり、同時多発的に抗議をはじめている。

 

そんななか、大統領は新たな有人宇宙船の打ち上げを見るために、今週末もフロリダに足を運ぶという。10万人が犠牲となり、暴動が燃え広がる中、ロケットは「アメリカの未来のために」人を宇宙に運ぶ。

 

考えてみれば、アポロ計画公民権運動華やかりし時代だった。いや、華やかという言葉はおかしいな、人種差別問題が運動によって可視化された時代だった。60年代、アフリカ系アメリカ人は制度的に貧しい状況におかれていた。

アポロ計画を描いたドラマ『From the Earth to the Moon:人類、月に立つ』のワンシーンを強烈に覚えている。ジョン・スラッテリー演じるウォルター・モンデール民主党議員がこんなセリフを言う。「すべての道に街灯がつくまで、アポロ計画には反対する」

冷戦の産物でもある月探査計画と、人種に根差した貧困の解消は、米国の国家運営の両天秤であった。輝かしい月計画の裏側で、何のために国家予算を使うのかが、確実に問われていた。

 

それに似た状況が、2020年のいま再び作られつつある。新型ウイルスによって暴かれた米国の貧困や偏りが、ありふれた事件をきっかけに暴動へと発展しつつある。その一方、希望の象徴たる有人宇宙開発は、新型ウイルスの問題を乗り越え、宇宙に飛び立つ。

ただ、アポロ計画と今回の状況は本質的に異なっている。今回の有人宇宙船は民間の事業であり、悪しざまに言えば、ビジネスに成功した富豪の夢なのだ。ロケットと公民権は天秤の両端に乗っていない。すでに分断されているのだ。