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フォー・オール・マンカインド シーズン1: 海外ドラマ全話レビュー

Twitterを使った『フォー・オール・マンカインド』シーズン1、おおよそ140文字全話エピソード・ガイド&感想(全10話)。

あらすじ

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 1969年。すべてが変わった。ソビエト連邦が人類初の月面有人探査を果たし、NASAアメリカ合衆国の宇宙開発は更なる開発と競争へと導かれてゆく。

アポロ10号で「月に降り損ねた男」となったエドワード・ボールドウィンは、ディーク・スレイトン局長の指示により、人類初の女性による月着陸を目指すべく、かつてのマーキュリー13のスタッフを訓練してゆく。冷戦構造が生んだ宇宙開発という歪んだ競争が、多くの人々に犠牲と苦悩をもたらし、また多くの人々に機会と変革を与えてゆく。アメリカは、そして人類は、この競争の果てに何を見るのか……。

全話レビュー

1-1『赤い月』

ソ連が人類初の月面着陸を成功させ、宇宙開発の歴史が大きく変わり始める。ドキュメンタリー的演出でリアルに描く架空史。アポロ11号のパニック描写には息を呑む。シリアスな展開の最後、傾いた月着陸船が思わぬユーモアになり、希望をも感じさせる良い終わり。★★★★

1-2『サターンC型開発の父』

ソ連に月初着陸を奪われた責任を巡り、フォン・ブラウンとアポロ15号飛行士ボールドウィン公聴会で証言する。鮮明な言葉で物語の向かうべき道を決定づける鉄板の「法廷ドラマ」。言葉の力に魅了される。実在と架空の人物を交差させリアリティを維持する技法も効果的。★★★★★

1-3『ニクソンの女たち』

スカイラブは月面基地計画へと変わり、米国でも女性宇宙飛行士の道が拓ける。実在したマーキュリー13計画を取り込み魅せる、女たちの闘いと友情。人間模様も生まれドラマらしくなってきた。訓練の行く末を女性権利運動の映像と重ねたクライマックスは見事。★★★★★

1-4『プライムクルー』

政治の道具と呼ばれようが、モリー・コッブは月に行く。米国初の女性宇宙飛行士という肩書への反発と自覚。表に出られないマイノリティの描写を加え、繊細に、コミカルに、人々の複雑な内面が描かれる。実在した「月に行けなかった女性」に捧げる昇華の物語。★★★★★

1-5『深淵へ』

氷を求め予定外の作戦に挑むアポロ15号クルー。フィクショナルな月面冒険譚だが、極上にリアルなCGIとセットが、そこで生まれるキャラの言葉と表情に迫真性を与えている。米国史の二面性を背景にした宇宙飛行士の妻たち・夫たちのトラウマ解放も、また胸を打つ。★★★★

1-6『遠のく期間』

アポロ23号を襲う衝撃の事故。その原因は……? テッド・ケネディ政権で人権政策の進む米国社会。そのディティールが事故の真相の伏線となる展開に驚かされ、明快な正義のない重層的な「世界描写」に唸る。育児を描くサブプロットにパンチがないのが残念。 ★★★

1-7『やあ、ボブ』

月面基地で延期された交代要員を待つ3人。彼らの心は耐えられるのか……? ほぼ全編舞台を月面に置き、特異な環境で起こる人間関係のゆがみや奇妙な3人の”文化”を描き出す。過度な起伏も派手なアクションも無いが、じっとりとしたリアリティに満ち溢れている。 ★★★

1-8『破裂』

独り月面基地に残るエド。その家族に悲劇が……。ソ連との対立が生み出した極限状況が、人々の人生を歪ませ、引き裂いてゆく。その終着点としてのこの地獄。カレン役シャンテル・ヴァンサンテンの演技が素晴らしい。残り2話、果たしてエドに救いはあるのか? ★★★★

1-9『飛べない鳥』

地上で、月で、遷移軌道で、ミッションの全てが狂ってゆく。心を抉る心理描写と、凄まじい緊迫感。絶望のギリギリの淵で、かつてのキャラたちが再び繋がりあい、僅かな希望の糸を紡ぐ。疑似ドキュメンタリーとして始まった本作は、見事なドラマへと転化した。★★★★★

1-10『丘の上の町』

暴走したアポロ24号を救うため、クルーの知恵と勇気を振り絞った挑戦が始まる。宇宙での極限描写に地球の様々な物語が重なり合い、架空であるにも関わらず歴史の重みを感じられる「事件」が画面に再現される。見事! 基地でのロシア人との超現実的な対話もよし。★★★★★

 

シーズン1 まとめ

総ポイント数

43 / 50

平均

4.3

感想

 『新スタートレック』『ギャラクティカ』のロン・ムーアが送る、あり得たかもしれないもうひとつの月面開発の物語。かつてトム・ハンクスが送り出した、アポロ計画の再現ドラマシリーズ『フロム・ジ・アース~人類、月に立つ』を踏襲する半ドキュメンタリー的な手法が用いられ、実在の人物と架空のキャラクターが入り混じりながら、アメリカ史をあり得ない方向へと動かしてゆく。

そこで描かれる物語は、まさにいま、2020年のこの時代にこそふさわしいものになっている。半世紀前の歴史を振り返り、光り輝く計画の下にいた、不当に虐げられていた人々に目を向け、彼ら彼女らを輝かせることによって、我々にとって、あるべき社会の姿とは何なのかを示唆してみせる。

ただ、理想論的な「あり得たかもしれない社会」を描くだけでは、この作品は終わらなかった。歴史を塗り替えてマイノリティに活躍の場を作っても、差別も平等も国家間の闘争も解消されない。なぜなら本作はファンタジーではなく、外挿法的な手法に則ったサイエンス・フィクションだからだ。歴史の進路がほんの少し変わっても、彼ら彼女らの苦闘は続き、ゆえに、そこにドラマが生まれる。リアリティが生まれる。そのリアリティこそ、現代に生きる我々にとって感動の泉源となり、また大きな気づきとなる。この作品のSFとしての価値はそこにある。

 

ギャラクティカで培ったVFX技術で構築された、人類がはじめて見るアポロ宇宙船の活躍にも目を見張る。宇宙機を捉えるリアルなカメラワークには、『ファイアフライ』『ギャラクティカ』で培われた「架空の宇宙をリアルに見せる技法」が見て取られ、長年のファンとしては何だかこそばゆい。