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『フェリシティの青春』 海外ドラマレビュー - やわらかなクオリティ

アメリカ1998年シーズンのドラマで最も注目された作品、『フェリシティ』(邦題:フェリシティの青春)。今となっては少々下火になった『パーティ・オブ・ファイブ』以来の、ハイクオリティ青春ドラマだ。日本には近年稀に見る早さ(アメリカ放送開始から半年以内!)で輸入され、WOWOWで放送されている。ニュージーランドでは10ヶ月ほどたった現在、99年7月から、TV3が放送を開始した。

高校生活最後の日、憧れのベン・コヴィントンが卒業文集に書いた言葉で、フェリシティ・ポーターの人生は変わった。親の定めた進路を捨てて、彼を追って来たニューヨーク。しかし、ベンはフェリシティを憶えていなかった……。ショックと後悔のなかから、次第にフェリシティは気づいてゆく。彼女がニューヨークに来た本当の理由。それは、自立したひとりの人間としての生活をはじめること。そして、新たな友情と恋を得て、フェリシティは自分のための人生を歩んで行く。

上流(中の最上流)家庭で、両親によって医師となる将来を強く希望されていた主人公フェリシティが、進学校を卒業したのち自分の意思でニューヨークに上京(?)し、自立した大学生活を送るという物語。あるコラムには「若き日のアリー・マクビール」とも書かれ(コメディではないが)、あたらしい女性像を描くドラマとして評されている。第1話と第2話を観たばかりだが、期待どおりの美しいドラマだった。

まずは画面の美しさ、そしてからだの動きによる感情のこまやかな表現が気を惹く。例えば第1話のオープニングの1シーン。やわらかな陽光の中で、密かに心を寄せる同級生、ベン・コヴィントンが、自分の卒業文集にメッセージを書いているのを見つめる、フェリシティの足のうごき! いきなりこんなもんを見せられると、嬉しくなってしまう。見かたによっては身悶えするようなこっ恥ずかしいシーンだが、観はじめていきなりこっ恥ずかしくなるぐらいのちからを持った表現だといえる。ほかにも、陰影の聞いた室内でふたりの顔が相互に映される、黒人カウンセラーとの会話シーンなど、印象に残る綺麗なシーンが多く観られた。画像に関しては『パーティ・オブ・ファイブ』を充分に超えるクオリティだ。

セリフによる感情表面に関しては、良い意味で少々大人しめかと思う。淡々と交わされる言葉は、単語と単語の間隔がわりと長め。しかしその一瞬の沈黙と、そこに見せる豊かな表情があるから、会話全体が持つ情報は非常に濃い。フェリシティが感情を高ぶらせて怒鳴るシーンもあるが、その声も一枚フィルタを通して聞こえてくるという感じで、言葉の意味よりも喋りながら見せる表情によりいっそうの意味が読み取れる。こういった微妙な演出で、ドラマ全体が柔かな雰囲気を持っていると思う。まあ同世代の人間としては、こんな若々しくて瑞々しい言葉と表情ばっかりする大学生も無いと思うが、全体が綺麗だからコレでいいのだ。

 

こうして、第1話からして高い品質を誇るフェリシティだが、クリエイターのフィルモグラフィをIMDbで引いてみても、かつての有名なクオリティ作品(大抵はスティーブン・ボチコの作品)に関わったという記録は無い。ひとりが映画『アルマゲドン』に関わったとあり、これは少々苦笑だが。ともかく、もはやクオリティ作品はボチコやケリーの専売特許では無くなったようだ。

 

さて蛇足。フェリシティの「中の最上流家庭」という設定は、自立した女性を主人公にしたドラマ・コメディには特に多い。『アリー・マクビール』『セックス&ザ・シティ』『バフィ・ザ・ヴァンパイアスレイヤー』『ウィル&グレース』ついでに『フレンズ』なんかも、ぜんぶこれである。ニューヨークなんかの小奇麗なアパートに住んでブランドの服を着こなせるぐらいの経済力がある、多少の教養を持ちリベラルで理知的な思考ができる、スマートでソーシャルマナーが適度に身についているなど、いってみれば「余裕のある」要素を持つ人間だから、ドラマも表現を縛られる要素が少なく作りやすいんだと思う。

ドラマのメインターゲットは、もちろん共感を呼べる同世代のハイティーンから20代中盤だが、もうひとつ、影のターゲット層があるような気がする。彼ら彼女らの、親の世代だ。次第に自分の手を離れ、見えなくなる子供たちの生活を、この作品は「かわりに見せてくれる」といえる。かなり巧く客層を狙っているように思える。とりあえず、フェリシティが大学を卒業するまではシリーズが続きそうな感触だ。

最後に。フェリシティ役のケリー・ラッセル(76年生まれ)だけど、けっこう恐い顔かも。アゴ割れかかってるし。でも親友ジュリィ役の エイミー・ジョー・ジョンソンが結構ヒット(なんじゃそりゃ)。

 

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