farsite / 圏外日誌

Gaao Line's Web Journal: Writing about US/UK TVs, cinemas, and foods I love.

『アリー my Love』 海外ドラマレビュー - キュートなだけじゃない!

ディヴィッド・E・ケリーは、『ピケットフェンス』『シカゴホープ』の原作者/脚本家である。『ピケットフェンス』なんて知らないし、『シカゴホープ』ってあの『ER』のパクリのヤツでしょ? なんて思ったら、バカヤロウッ、どこに目ェつけてんだっ! いや、彼の他の業績に付いては別のファイルに改めて書くことにしたい。

ともかく、そのディヴィッド・ケリーの最新作『アリー マクビール』(邦題: アリー my ラブ)は、これまでの彼のシナリオの個性を、まったく新しい世界に持ち込んだ、「コメディ」ドラマだ。彼はこのシリーズの華々しい成功を持って、テレビ界の新しい王者の名前を確固たるものにする。

若手女性弁護士アリー マクビールは、ひょんな事から大学時代のクラスメイト リチャード フィッシュの新しい弁護士事務所で働くことになった。ところが、彼の事務所にいたのはアリーの幼なじみにしてかつての恋人、ビリー トーマス。しかも彼は別の女性、ジョージアと結婚していた。今もお互いに思いがあることを知るビリーとアリー。事実を知って嫌われるはずのジョージアとも友人になってしまう。ルームメイトのレネーのアドバイスに支えられ、奇妙な同僚ジョン ケイジの法廷戦術に惹かれながら、アリーの人生の探求は続く……。

ジャンルではコメディに分けられるこのプログラム、しかし、 シチュエーションコメディではなく、1時間モノのドラマ形式である。当然、バックグラウンドの観客の笑い声も入らない。完全に非公開の撮影。ギャグもコメディのように言い回しやダジャレを使う事はなく、純粋に、シナリオと映像で笑わせてくれる。また、映像ではコンピュータを使った映像操作による「アリーのこころの目」描写が特筆される。恥かしさで頭から湯気があがる、とかそういった描写だ。日本で言うならば、「漫画的描写」である。

過去にもコミカルな演出をしたドラマは数多くあったろうが、この奇抜で挑戦的な技法は、クオリティドラマの重要な要素の一つで、ケリーの最も得意とする「スピード感」あるシナリオを、直接的な「笑い」に結びつけたものだ。作品はこの描写を挿入する事で、いままで「コミカルな言動」に頼ってきた、コメディ独特のリズム感を出そうとしている。第2シーズン以降その演出は減っているが、実に興味深い試みだったと思う。クオリティドラマとシチュエーションコメディをミックスして、さらにプラスアルファを重ねたこの番組は、「まったく新しい作品」と呼ぶに値するだろう。

もちろん、傑出したシナリオと高水準の演出、演技があるからこそ、このドラマの成功は成り立つ。アリーとビリー、ジョージアの三角関係(なんか使うのがはばかれる言葉だなあ)は、ケリー得意の激しく急な言葉のやり取りと、その後で見える深い感情の描写で、 ソープオペラとクオリティドラマの違いを見せ付けてくれる。3人の冷静を装った会話がある言葉をきっかけに突然ににして心のうちをさらけ出した怒鳴り合いになり、それがまたすぐに止んでお互いに謝り合う。そんな描写はすごくリアルだし、一つ一つのアクションにキレがある。ちなみに、ジョージア役のコートニー ソーンスミスは、天下のソープオペラ『メルローズ・プレイス』にも出ていたそうなので、日本で観ていた方は演技の違いに注目してみるのも面白いかもしれない。

また、アリー役のカリスタ・フロックハートは、決してハリウッド的美人ではないし、アップにすると小じわが目立っちゃったりするが、その少しどもり気味のしゃべり方、怒るとすぐにふくれる口もと、「でへへ~」という笑い方、総じてキュートすぎる演技は、今までのアメリカ製ドラマに見られなかったツボを突きまくっている。すんません、この辺感情に走ってます。

 

個人的には、このシリーズの真の魅力は、恋愛ドラマ(或いはラブコメディと言うか)ではなく、これまでのドラマにない、「コミカルな法廷」にあると思う。弁護士の歯を見て審判する判事、判事と恋愛関係を持つ弁護士、勝つためにならダンスもする法廷戦術。また、ネタになる訴訟も、いくらアメリカとはいえ実際には起こり得ないだろう突拍子もないものばかり。訴訟社会アメリカの民事裁判の様子をエキセントリックに描いたギャグが、弁護士たちの個性的で魅力あふれる演説と一体となり、実に「楽しい」法廷シーンを作り出している。

そしてその弁護士たちの弁論。クオリティドラマの始まり以来、民事、刑事それぞれ様々な作家達によって脚本化されてきた彼ら「説得のプロ」の言葉が、この作品では更に磨きがかかっている。この弁護士たちの繰り出す言葉には、まるで優れた音楽を聴いているような驚きと感銘を受ける。同情の涙を誘うのではない。よじれる笑いの連続でもない。純粋に、心に染み渡る、説得だ。ネタになる裁判も振る舞う弁護士も奇妙で異常だが、その最終弁論の言葉には圧倒的なリアリティが感じられる。まるで、実際に起こったかのように。そしてその時、冗談めいた裁判の中に、現実社会の問題提起がはっきりと、濃縮されて見えることになる。

なんであれ、このイマジネーション全開の法廷こそ、彼自身弁護士の資格を持つケリーの真の魅力であると思う。

 

現在、本土では「マクビリズム」とまで呼ばれるプログラムのブームが起きているらしい。ファンサイトのFAQ等を観ていると、「アリーが雪の中で踊ったときに着ていた『ひつじのパジャマ』が売り切れ!」だとか、「アリーのファッションをFOXがライセンス取って高級ブランド化するかも!」といった現象が紹介されている。そこまでは真偽の確かめようが無いが、少なくともテーマソングと劇中使用された曲を収録したヴォンダ・シェパードのアルバムCDはここニュージーランドでもロングヒットしているし、TIME誌でも取り上げられていることは確かだ。アリーブームはヨーロッパを中心として世界的なものとなる(なっている)だろう。女性の社会的地位向上が進められる東南/極東アジアでも、注目される作品となるかもしれない。

(以下、98年10月の情報です)そして、日本。今まで世界的なテレビブームにことごとく乗り遅れてきた、あるいは無視してきた日本でも、今回はチャンスがある。H.KENさんのサイト 「海外ドラマ情報ページ」内の アリーマクビールのページによれば、NHKが10月末からの海外ドラマ枠に、アリーをもって来たのだ。今までのドラマがどれも2~3年遅れだったのに比べて、最初のエミーノミネーションの段階から放送が決まるのはかなり早い、良い対応だ。いいぞNHK! さすが「国民のための」放送局だ!

……と、正直言えば、不安や残念な気持ちも少々ある。NHKでラディカルな描写は大丈夫かなあ、とか、タイトルはストレートに出来なかったのかなあ、とか、やっぱり民放の9時代なんて無理だよなあ、とか、吹き替え声優の演技は……ああ! 考えるのは止そう。とにかく、日本でも始まるのだ! 第1話で「これはちょっと……ERとは違いすぎるなあ」なんて思っても、決して観るのを止めないでほしい。第5回までくれば、あなたは絶対に、ディビッド・ケリーとアメリカのクオリティドラマの凄さを、改めて知ることになるはずだ。