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Gaao Line's Web Journal: Writing about US/UK TVs, cinemas, and foods I love.

『ペリフェラル』第1話 - 我々はいつまでクロエ・モレッツのアレな姿を見続けるのか

*本稿、勢いだけで書いてるのでこれ自体ずいぶん歪んだ解釈の内容となってます

 
お前らクロエ・モレッツを何だと思ってるんだ

クロエ・グレース・モレッツは、子役としてのキャリアの初期からどうも映画製作者と映画ファンの微妙に歪んだ嗜好の対象になってきた節がある。

悪魔の棲む家』の存在感もそうだし、彼女をスターに押し上げた『キック・アス』なんかもろにアレだ、子供にカント! て言わせてキャッキャ言っちゃうアレな感じ。ギリギリ「芸術だから」で許されるラインで、顔のいい女の子に日常の倫理からちょっとだけ逸脱したことをさせるという、フェティシズム的な”良さ”を、製作者は、そして我々ファンは、クロエ・モレッツに求めてきた。

彼女は『HICK ルリ13歳の旅』では残虐な初体験を演じ、『キャリー(リメイク)』では女性監督のもと、初潮と第二次性徴期の女性の生々しいあり様を演じてみせた。どちらもフェティシズム的な視点で見ようと思えばいくらでも見られる、未成年の役者にやらせるには倫理的にも政治的にもアレな内容だ。

そんな作品続きでも、彼女がキワモノばかりの妙な子役という位置に陥らず、炎上もしなかったのは、彼女の業界人としての早熟なバランス感覚と、同世代としては卓抜の演技力があったからだと思いたい。

彼女は映画に出る傍ら、ティーンのアイコン、アイドルとしても自らを発信し、存在感を得ていった。その背景があるから、フェティッシュなシーンでの彼女の演技力は、同世代の女の子にリアルな共感を与えるものとなり、「政治的に正しい存在理由」を獲得したのだ。まあそれこそ幻想かもしれないが、ともかく彼女はハリウッドの残酷な要求を乗り切り、地位を築いた。

 

ペリフェラル』という転機(と勝手に想像したもの)

その後、『フィフス・ウェイブ』のようなヤングアダルト作品、『トム&ジェリー』などの完全に子供向け作品への出演を重ね、ティーン・アイコンらしい(アレな大人からしてみたら、つまらない)仕事をしてきた彼女だが、そろそろ20代中盤。ここに来て大人の演技が求められよう。そんなタイミングでポンと新作リストに上がってきたのが、Amazonの配信ドラマ『ペリフェラル』だ。これは期待できるかもしれない。

なにしろウィリアム・ギブスン原作のSF作品である。そもそものギブスンのサイバーパンク小説は中高生的な“カッコよさ”の原点みたいな作品なのだけど、本作は彼が社会とコンピューターに関する思索を積み重ねてきたあとの、最近の小説だ。大人の深みのある作品になっている気配がある(勝手な思い込みだが)。

さらには、今回の映像化は『ウェストワールド』の作家陣によって実現している。ウェストワールドの見せた世界観、そして人の心理をえぐる演出はすばらしかった。ならば、今回ついにクロエ・モレッツの新しい演技が見られるのかもしれない!

 

そんな淡い期待を抱きつつ、配信第1話を観たのだが……。現実は過酷だった。

 



まだそんな絵を撮る!

『ペリフェラル』仮想空間にログインするクロエ・モレッツ

画面に映し出されたのは、半目をあけてピクピクと痙攣するクロエ・モレッツのドアップだった。それも何度も、何度も、執拗に。半目でニヤけるモレッツのクローズアップ。苦痛に顔をゆがませるモレッツのクローズアップ。泡を吹かんばかりに悶えるモレッツのクローズアップ。これ穏当に見せかけて今まででいちばんフェティッシュじゃないの??

本作の設定は、非常にスタンダードな仮想現実ものだ。2030年代の近未来を舞台に、クロエは頭に付けた脳・マシンインターフェイスを通じ仮想の22世紀世界にジャックインし(今時こんな言葉使うのか知らないが、ギブスンの作品なんだからそう呼ぼう)、そこで兄の姿のアバターをまとって冒険を繰り広げる。

しかしジャックイン中の彼女は、外見的には安楽椅子で夢を見ているような状態になる。その様子を映すとなると、例の痙攣モレッツが出てくるわけ。製作陣はこの痙攣百面相を繰り返し見せようとしてくる。それでまた、彼女の痙攣演技が上手いんだよ……。

 

つまるところ、クロエ・モレッツは帰ってきてしまったのだ。彼女のフェティッシュな魅力を求める人々のもとに。テーマや脚本ありきではなく、アイドルとしての彼女をどれだけ魅力的に映すかに、製作陣はフォーカスしている。その「魅力」が、彼女の場合いつも、頭のちょっとだけアレな製作者の考えるアレな姿なのだが。

しかしチャン・イーモウだって『初恋の来た道』で若手女優のチャン・ツィイーをとにかく可愛く撮ることに執着して、ベルリンで銀熊賞獲ってるのだ。『ペリフェラル』はまだ第1話。ひょっとしたら今作こそ、彼女の演技が化けるのかもしれない。わけのわからん期待はせずに、素直に観ていこうと思う。

 

ちなみに第1話、筋書きとしては非常におとなしい内容。SF的な視点の転換があるわけでも、派手なVFXがあるわけでもない、ただただ状況がセットされたという感じ。原作本は未訳だし英語の梗概も読んでないが、なんとなく仮想現実ものと見せかけて時間SFなんだろうなーという予感はする。21世紀にもなって大御所がマトリックスそのまんまの作品というわけにもいかないだろう。