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Gaao Line's Web Journal: Writing about US/UK TVs, cinemas, and foods I love.

オーストラリア象とアボリジニ、驚異の象文化のこと

オーストラリアの原住民族アボリジニの文化には、象をモチーフにしたものが少なくない。その最たるものが民族楽器デジュリドゥだ。穴の開いた長いユーカリの木の管楽器で、波のある重低音を鳴らす。これは明らかに象の鳴き声を模している。

確かに、アボリジニがオーストラリアに到達するまえ、オーストラリアには象が住んでいた。それがオーストラリアゾウだ。ボルネオゾウとおなじコビトゾウの一種で、体高150~180㎝。化石から概算された脳の体重比はゾウ科のなかで最も重く、イルカを上回ると考えられている。

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この絶滅した象の研究でもっとも議論を呼んだのは、骨の化石ではない。足跡の化石だ。いくつかの足跡のちかくには、鼻で描いたと思われる模様も残されていた。いずれもおおむね、長い曲線に交差されたいくつかの直線と、鼻先でつけられたと思われる点で構成されている。なかには、露出した岩肌や洞窟の壁にタールで書かれたものも見つかっている。

この模様は、象の歌を表現したものだと信じられている。そのパターンの多くが、アボリジニのデジュリドゥ音楽と一致するからだ。曲線はデジュリドゥの音の周波数パターンを、直線や点はリズムを表している。

さらに問題となるのが、洞窟に残された模様だ。もっとも古い模様の痕跡は、アボリジニがまだ大陸に到達していない7万年前頃のものだが、その模様は上書きを重ねられ、最新のものはわずか4千年前、オーストラリアゾウが絶滅した後にまで続き、変化している。そして、この一部は「意味」が解明されている。なぜなら、これはアボリジニの原始文字だからだ。

この模様は、単なる音の模倣ではない。オーストラリアゾウが残し、アボリジニが引き継いだ文字なのだ。アフリカゾウも鳴き声と足踏みで高度なコミュニケーションをとると言われているが、オーストラリアゾウのそれは明確に「言葉」であり、表音文字として残されている。

オーストラリアゾウは、アボリジニ流入後に急速に数を減らし、絶滅したと考えられている。その頃のゾウの化石には槍に刺された痕が、ヒトの化石には鈍器による陥没が多くみられる。鈍器自体の化石もある。シュロの葉でつくった縄に岩を括り付けたフレイル状のもので、人間が使える重さのものではない。これは象の武器だと考えられている。

オーストラリア大陸に到達した最初の非有袋類獣であり、最初の知的生物、オーストラリアゾウ。彼らはヨーロッパのネアンデルタール人とおなじように、現生人類と争い、負け、絶滅していった。一方で洞窟の中では、ゾウとヒトとの文化の交流があり、アボリジニは彼らの文化を引き継いだ。われわれ人類の文化的血脈には、たしかに、絶滅した異種族の文化が流れこんでいるのだ。

現在わずかながらだが、オーストラリアのダーウィン大学を中心に失われたゾウ語の研究が行われている。オーストラリアゾウの文字は現在、象形文字と呼ばれている。