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『サード・パーソン』映画レビュー - 反芻感動映画

映画『クラッシュ』や『L.A.ロー』の脚本、早すぎた傑作TVシリーズ『EZストリーツ』で有名な(でもないか)ポール・ハギスのつくる、三組の男女の見せる人間模様の映画。人の心を抉り出す描写を期待していて、確かに堪能したんだけれど……この構成はズルい! 最初に確信もって気づかないと、もう一度観たくなる。

あらすじ

パリ。とある事情で妻と別れた落ち目の小説家は、次回作がなかなか書けずホテルに缶詰状態。ある明け方、ふと、"Watch me." という声を聴く。奔放な恋人との駆け引きを楽しみ、翻弄されながらも、彼は物語を紡いでいく。

ローマ。落ちぶれたアメリカ人ビジネスマンは、バーでロマ族の女性と知り合う。マフィアに娘を人質にとられた彼女に惚れ、奪還に協力するのだが、次第に疑念が生まれる。

ニューヨーク。育児疲れで子を殺しかけた元女優の女は、親権を夫にとられ、稼ぎもなくホテルのメイドとして働き始める。どうしても面会権を得たい彼女だが、ままならない事情がそれを阻む。

感想

構成

まさかこういうトリックで来るとは思わなかった。

そもそも、ローマ編の設定(ロマ族の描かれ方)がやけに安っぽいなあ、ポール・ハギスらしくない、と思った時点で気づけばよかったんだ。劇中そのまんま「安っぽい」ってセリフがあるのに気付かなかった。くやしい!

 

気づかないまま終わってしまうと、なんだか釈然としない想いしか残らない。ラストシーンでネタが割れるんんだけど、それも明確に「説明」してくれるわけではないので、違和感を抱えたまま終わってしまう可能性もある。

でも、その違和感が疑念になり、確信に至れば、ラストシーンが、すべての物語が、すとんと胸に落ちる。そこにあるのは一人の男の「乗り越える物語」だ。このキャラ設定、この構成だからできた、見事な比喩、見事な心理描写。彼の苦悩が真に迫ってくる。物語を反芻すればするほど、感動が高まってくる。

ズルい。スゴい。ポール・ハギスに見事にハメられ、心を持ってかれた。

 女性

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物語の構成以上に評価を分かつかもしれないなあと思ったのが、小説家の恋人(オリヴィア・ワイルド)の人物造形。彼女にものすごく共感するか、それとも「すごくウザい女」とみなすかは、分かれ道だと思う。言ってみれば他の2編の女性の造形も、彼女の鏡写なわけだし。

 個人的には、彼女の性格や行動、表情には、ものっっすごく親近感を覚える。これこそ、ポール・ハギス本人が経験した恋愛のコピーでは、という感じだ。

愛のあまり激情に駆られ、理不尽なわがままをぶつけ、あるいは挑発し、駆け引きにこの上ない幸福感を覚える……駆け引きの勝ち負けでなく、駆け引きそのものが、相手の関心がすべてこっちに向いてるってことだから。あるいは、ぶつけられた本気の愛情表現に対処できず、怒り、泣く。あーあーあるあるあるある。あーーーー思い出したくない。そんな恋愛のありよう、人間のありようを、ワイルドはもの凄く巧く演じていると思う。ほんと、自分をコントロールできてない女と言ってしまえばそれまでなんだけど。

ただ一点だけ不満なのは、終盤彼女自身が、作家に向かって「私はあなたにひどいことしている」と言ってしまうところ。ああいう人間(男女問わず)は、自分が悪いことしてるという自覚をなかなか持てないと思う。自分自身を三人称で見ることができないから。

そこを自覚して言わせてしまったので、最後に、彼女すら実在感を失ってしまった。

いや、実際そうだ。ある瞬間から、彼女も小説家の脳内の存在でないと辻褄があわない。いや、ひょっとして全編通してそうだったのかもしれない。

あのセリフもそこまで考えてのセリフだったのかもしれないな。ポール・ハギスのことだし。

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