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Gaao Line's Web Journal: Writing about US/UK TVs, cinemas, and foods I love.

エストニアは“なぜ”IT先進国になったのか

先日ラトビアに1年ほど住んでいた人と話す機会があったのだけれど、思いがけず感動したので書き残しておく。ラトビアではなく隣国エストニアのことだ。

ラトビアについては首都がリガだということぐらいしか憶えてなかったので、話題に苦慮し、とりあえずおなじバルト三国ということで、「隣国はすごくITが進んでるんですよねえ」と話を振ったら、その静かな人は、少しだけ興奮した口調で語り始めた。

 

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私もいちおうはIT業界的なところに腰をかけている身なので、エストニアがIT先進国だという情報は入っていた。SkypeなどITベンチャーが多く、IT教育も充実、電子政府制度が発達して投票も納税も国民IDでぜんぶOKという国。マイナンバーの話題がかまびすしい頃、日本もエストニアを手本にせよという話はよく聞いた。

でも、なぜそうなったと思いますか?

そんなこと問われるまで思いも至らなかったので、優秀なエンジニアがいたからとか、国が小さいから普及させやすかったとか、国家産業としてITに注力したとか、ぼんやり思っていたら、彼の口からは予想外の話が出てきた。

 

エストニアには2つの独立記念日がある。1917年のロシア帝国崩壊後の独立の日、再びソ連への併合を経て1991年、ソ連崩壊後の独立の日。バルト三国でもっとも小さく、人口も沖縄とさして変わらない国は、常に巨大なロシアからの(大戦期にはドイツにも、古くはスウェーデンなどからも)侵略・支配にさらされてきた。

91年に独立し、国家制度を立ち上げるなかで、彼らにとって「再び国土が支配されるかもしれない」という危機感は、ものすごく現実的なものだった。というか、現にそうなるだろうという諦観に近いものすらあったという。

そこで、電子政府と国民IDだった。物理的な政府、人と紙とで行われる行政が占領によって機能しなくなっても、ネットワーク上のソフトウェアとして政府がある限り、IDを持った国民はそこにアクセスし、エストニアという国と同胞に繋がることができる。

物理的な国家が消滅し、国土を追われ他国に移住したとしても、ひとつの国民、ひとつの民族として、繋がっていられるのだ。

現にエストニア電子政府は、エストニア国内にあるわけではない。世界数か所のデータセンターに分散され、ひとつがダウンしても機能を維持できるようになっている。クラウドという言葉が出る前から、クラウド的な運用を実現している。

 

民族の存続という巨大なモチベーションがあったから、エストニアはいちはやく電子政府の仕組みを確立し、社会の基盤としてITの普及に努めてきたのだ。

日本や米国のように、電子化すればコストが減り便利になるなんて生易しいモチベーションでは、電子政府などそうは普及しないし、本気で取り組まれもしないだろう。

そんな話だった。

まるでSFのようだった。『日本沈没』後に日本をどう存続させるかというような話が、現実に語られ、すでに実装されている。

あるいは、子供の頃のほほんと抱いていた、21世紀になれば戦争も国境も消え平和な社会になるという夢想への、現実的な回答。EUによる平和的な社会統合が進み、均質化された社会の中でも、エストニア人がひとつのトライブとして、確固たるアイデンティティを持ち続けるためのしくみ。それが国民IDと電子政府なのだ。

感動した。

 

余談その1

きょうになって、この話ほんまかいなと検索してみたら、ほぼ同じことを2015年に週刊ダイアモンドで、エストニアの国家CIO自身が語っていた。確かに実話だったわけだ。

余談その2

「戦争も国境も消え平和な社会になるという夢想への、現実的な回答」の節だけど、かつては善とされていた「人種のるつぼ」=人種等の社会的な属性が完全に“溶け合って”均質になった社会と言うのも、いまは「同化の強制」ということで問題視されている。「るつぼ」ではなく「人種のサラダボウル」つまり民族性を含む各人の個性・属性を維持したまま混じりあう社会を実現するための一つの手段として、電子政府による繋がりは有効ではないのかと思う。無論、国家制度による個人の統制という負の側面も強調できるが、そういった問題を解決しつつ、電子政府が民族の繋がりの道具となるなら、未来の世界において、かなりマシな選択肢になるのではと思う。

スニッファー - シーズン1:海外ドラマ全話レビュー

AXNミステリーで放送された『スニッファー ウクライナの名探偵』、おおよそ140文字エピソードガイド&感想、第1シーズン。本作はNHKで翻案され、国内版が放送されている。

あらすじ

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異常嗅覚を持つ男、通称「スニッファー」。彼は世界のあらゆる香りに精通しており、僅かな残り香から、そこにあったモノや人物を特定する能力を持つ。超能力を持ちながらひねくれものの彼は、ロシア特別捜査局のヴィクトル・レベデフ大佐に嫌々ながら協力し、数々の難事件に挑んでいく。

スニッファーの別れた妻とその息子は、彼の人生をかき回す。そんななか知り合った医師の女性とスニッファーは恋に落ちるが、彼女には秘密があった。一方軍では特殊部隊の暗躍が始まり……。

エピソード・レビュー

1-1話

会社社長の殺害現場で、スニッファーはニコチンパッチとユーロ札の匂いを嗅ぐ。社長はなぜ殺されたのか? 導入編だけにプロットは比較的シンプルだが、スニッファーの超嗅覚の見せ場は多く、背景の家族関係もうまく絡められてる。期待させる内容。★★★★

1-2話

不動産開発に関わる大物を殺していくスナイパー。スニッファーは次の暗殺を防げるのか……。緊迫感のある物語になるかと思いきや意外とそうでもなく。ただラストはきっちりアクションで締めた。連続で汚職問題が題材となるのもロシアならではか。★★★

1-3話

シリーズの経糸だったスニッファーの息子の問題が、3話目にして早くもフォーカスされる。アクションあり返送ありと充実の内容だが、能力を失ったスニッファーにフォーカスが行かなかったのが残念。暴かれるのは警察の汚職汚職ばっかりだな……。★★★★

1-4話

ドイツから返還されたレーピンの名画は贋作? スニッファーはドイツ側に雇われ、ロシアの捜査局と競いながら捜査を進めるが……。殺人が絡むアクションシーンのない純粋な推理もの。謎解きは容易だが、レギュラーもゲストも個性が出て楽しい展開。★★★★

1-5話

軍の病院で射殺された若い兵たち。第1348部隊で何があったのか? 軍内のいじめ(カフカス出身者が狙われるというのがリアル)が森の中の美しい恋物語に化ける、驚きのある展開。3話に続き、探偵モノらしい適度に浮世離れした空気が心地よい。★★★★

1‐6話

誘拐された社長の息子。肝硬変の匂いを放つ犯人は誰だ? 推理が二転三転する正統派のミステリで、歯ごたえがある。様々な匂いが一貫して物語を導くのも、作品のユニークさを印象付ける。派手さはないが良質な佳作。奇妙な日本描写はアバタもエクボ。★★★★★

1-7話

マフィアのボスが殺され抗争が激化。スニッファーは1枚のスカーフから犯人を導きだせるか? 今回はアクション&特撮たっぷり。捜査はいつも通りだがマフィアに絡むので緊迫感がある。ただボスに妙に凄みがないのは演出不足か、意図通りか? ★★★★

1-8話

スニッファーに届いた全く匂いのない手紙は、殺人鬼からの挑戦状だった。古典的かつ王道の探偵VS犯罪者バトル! ハイテンションでぐいぐい引っ張られる。犯人の動機はありがちだし脚本の穴もあるけど、それを補う物語のノリとキャラの魅力。★★★★

 

まとめ

総ポイント数

32 / 40

平均

4.00

感想

なんと珍しい、ウクライナ製のドラマ。タイトルに惹かれて観始めたのだけれど、思った以上に出来が良く、評価も高めに出してしまった。なお、ウクライナ製とはいえ舞台はロシアで、製作費の比較的安い国でクオリティの高いドラマを作り、ロシア圏(旧ソ連領域)全体の市場や、その外を狙ったパッケージだと思われる。日本に対しても「アイディア売り」が成功していて、NHKで翻案したバージョンが作られている。

肝心の中身だけれど、“におい”で犯行現場の状況が分かるというワンアイディアの超能力を、『CSI 科学捜査班』のようなCGIによる描写で描き、それを物語の推進剤としている。世の中まだまだ、アイディアは尽きないんだなと感心してしまった。

物語もオーセンティックで、シリアスになり過ぎず、おちゃけ過ぎず。探偵という非日常的なキャラを軸に構築された世界は、リアルとは言えないけれど、説得力がある。捜査局のオフィスが浮世離れしたおしゃれさだったり、登場人物が結構わざとらしい独り言を言ったりする、最近のドラマじゃちょっとそれはないんじゃないの? と思える描写も、きちっと作りこまれた作品世界の中でなら、あまり気にならない。

エピソード的には、スニッファーの家族にフォーカスをあてた最初の3話が終わったあと、中盤以降は話のネタが多彩になってからが面白い。1話完結の推理ドラマとしてよくできている。殺人事件以外の事件を匂いで解決する4話、どこかファンタシーのような結末になる5話、そして歯ごたえのある推理が展開する6話。どれも楽しめた。

 余談

このドラマ、ウクライナ・ロシアの現代文化がそこかしこに見えるのも面白い。たとえば第1話では、「塩洞窟療法」みたいなのが出てくる。塩で塗り固められた部屋に入ってアレルギーを直すそうで、塩の産地によって効果が違うとか。また第2話では検察幹部の高級酒としてサントリーウイスキー ローヤルが出てきたりする。ステータスなんだろうか?

食い意地メモ:ベーコンビッツ

近所のスーパー(ライフ)に行ったら、調味料コーナーにベーコンビッツが置いてあった。見ての通りベーコンのふりかけ。初めて見た。

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むかし、アメリカの食に関するドキュメンタリーをいくつか見ていて、それは健康への警鐘云々ではなくアメリカ人のソウルフード(バターたっぷりのパンケーキとか)を見ていくというポジティブなものだったけど、その中のひとつが、ベーコンだった。

そこで「ベーコン好きのアメリカ人が行きついた究極」のひとつとして、ベーコンキャンディとコレが出てきた。ベーコンビッツはベーコンではない。ベーコン味の大豆たんぱくだ。でもこれをかければ、なんでも一瞬にしてベーコンになってしまう。どんだけ好きなんだベーコン。

 

そんなアメリカの魂みたいな調味料が、たまたまこのスーパーにも流れてきたのかな、と思ったら、これマコーミックブランド、ユウキ食品の純国産品だった。大豆たんぱくも「遺伝子組み換えでない」日本向け。自分が知らないだけで、国内でも結構好まれてるんだろうか、ベーコンビッツ。

 

で、何をやってるかというと子供みたくベーコンビッツをちまちま手に出しては舐めとって味わっています。そんなにベーコンかあ、これ?

 

なお、ドキュメンタリーはベーコンがどう作られるかを描いていて、豚の処理場で豚を可能な限りストレスなく殺す設備や無痛処理の電撃棒の解説、それから肉をアブラと赤身に分け、一旦ドロドロにしてからつなぎ合わせる技術なんかを説明してました。おぞましいではなく、ポジティブに、こうやってできてるんだ! という描き方。こういうのもいいと思う。

 

ユウキ MC ベーコンフレーバードビッツ 110g

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