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Gaao Line's Web Journal: Writing about US/UK TVs, cinemas, and foods I love.

『オンリー・ゴッド』 映画感想 - レフン&ゴスリンクのやりたい放題!

大学で取っていたアジア映画史のレクチャーで、ウォン・カーウァイの『花様年華』という香港恋愛映画が題材に出たんだけれど、まあ画面が赤くて赤くて辟易した記憶がある(大学の色の潰れたブラウン管モニターで観たせいもあるが)。今回それを思い出した。画面の赤さも、製作者の悦に入った顔が思い浮かぶ演出も。

あらすじ

タイでヤクの密売やってたら警察の処刑人が襲ってきた。

感想

美意識過剰が成功してる!

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物語はシンプルなクライム・アクションで主人公は情けないマザコン(監督の前作『ドライブ』の前日譚としても観られるだろう)。白人がタイの格闘技使いと戦うという設定は、別に日本でも中国でもメキシコでもいい、ありがちなエキゾチシズムだと思う。それはそうなんだけど、実際観るとこれ、マトモなアクションじゃないわけ。

赤と青の極端なコントラストに染められた画面、なりっぱなしの重低音、眉一つ動かさない蝋人形のような役者たち。ニコラス・レフン監督の強烈な美意識がアタマからシッポまで洪水のように襲ってくる。

このこだわり、一見まるでマイナーな映画祭で流れる、若い監督のクソつまんない自意識過剰作品みたいな感じだ。でも恐ろしいことに、この映画は美術も音楽も演技も、すっげー高いところで成立してて、バランスよくひとつのアートにまとまってる(まとまってねーよと言う人も多そうだけど)。

映し出されるのは北野武みたいな乾いた暴力なのに、北野映画ではこの絵は撮れないだろう。監督本人が優秀でも、画面を作るだけのスタッフ、そして美術予算が日本国内では得られないだろうから。このへんやっぱりハリウッドというか米国資本は恐ろしい。

笑って楽しめる!

この美術を実現できたからこそ、マトモじゃないシナリオも許された。フツーのアクション映画では比喩としてさりげなく隠されるものを思いっきりさらけ出してる。ゴスリンクらを襲うタイの処刑人は神のおこした「天罰」そのものだ。

セリフがロクにないぶん、人の内面や、抽象的な映画のテーマが、ダイレクトに絵として表現される。本来物語のバックボーンにテーマがあるはずなのに、この映画はテーマの間に物語が挟まってる感じ。交差する現実描写と妄想描写、あやふやなプロットは、極端な美意識のおかげで一貫性を得ている。

そんな美意識の極北は、母性と罪というテーマをド直球で表現した、母親の腹を開いて子宮に手をつっこむシーン。普通に観たら、なにカッコつけて絵作ってんだよもっと工夫して見せろよと逆にシラけちゃうのに、この映画では、笑って楽しめる。

そう、笑えるのだ。監督もゴスリンクもわかってやってる。すっげー楽しい絵を作ってるぞってのが判る。突如始まるカラオケシーンなんて、モンティ・パイソン的な不条理コントの域だ。もう笑うしかないんだから!

物語に潜むいろんな意味、いろんな比喩を臆面もなくドカドカ画面にてんこ盛りにして、レフンとゴスリンクがやりたい放題やったこの映画。いやあほんとよくやってくれたわ。

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