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X-ファイル シーズン7 海外ドラマ全話レビュー

Twitterを使った『X-ファイル』おおよそ140文字エピソードガイド&感想、第7シーズン。 

あらすじ

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異星人の存在は人類の歴史と信仰にも関わってきたのか? 自らの発見に驚きつつ、探求心を抑えられないスカリー。一方精神崩壊の危機に見舞われたモルダーは、異星人によりもたらされた何かが、自分の中で目覚めるのを感じていた。それを利用しようとする組織の手から辛くも脱した二人は、再びX-ファイル課の捜査官として謎の探求を始める。

彼らはこれまで以上に奇妙な、もはや科学的な説明など一切つけようのない妖怪や精霊とも関わっていく。そんな中、モルダーは異星人に誘拐されたと信じてきた妹の真相を知ることになる。秘密組織の陰謀に弄ばされてきた彼女が、最後に触れたのは神の存在であった。神秘を受け入れ、深い安堵を覚えるモルダー。しかし彼を待っていたのは、彼自身がアブダクションの被害者となるという運命だった……。

 

エピソード・レビュー

7-1『第六の絶滅 Part1

アフリカで謎の石板を調査し、超常現象に襲われるスカリー。一方精神病院のモルダーには超能力が……。2つの場所で様々な現象が矢継ぎ早に発生し、1話で2時間分の密度を感じる。怪奇現象の不気味さもしっかり。シーズンプレミアとして上々の滑り出し。★★★★

7-2『第六の絶滅 Part2

FBI本部に戻ったスカリーは行方不明のモルダーを追う。一方モルダーは研究室から平穏な日常へ……。前編に比べて派手なシーンは少なく、展開も落ち着いたつくり。モルダーの第二の人生の描写は丁寧で、特殊メイクと最後のVFXには目を見張る。★★★★

7-3『ハングリー

今週の一発ゲスト怪人は人喰いミュータント。人の脳を食べたいという衝動と戦う男の心理が、コミカルに、やがて悲哀をもって描かれる。スローだが端正に作られた短編という趣。怪人の特殊メイクは装飾を削ぎ落とし、かつ人の感情も表現できる優れたデザイン。★★★

7-4『ミレニアム

瓦解した秘密結社ミレニアムの復活を阻むため、モルダーたちはフランク・ブラックに協力を仰ぐ。打ち切りとなったスピンオフシリーズの完結編というか余話。中身はストレートなオカルト・ゾンビもので意外とこじんまり。ランス・ヘンリクセンの笑顔に惚れろ!★★★★

7-5『ラッシュ

お題は超加速能力。その力を得たスクールカースト底辺の少年たちが狂っていく様を描く。彼らの物語に青春モノ的な起伏がないのは、シャープとも言えるし単調とも言える。映像面ではさすがにバレットタイム撮影はなく、終盤の加速描写はスロー撮影と銃弾のCGI。★★★

7-6『ゴールドバーグ

今回の怪人は確率的特異点。あらゆる賭けに勝つ彼が人のために幸運を祈ったとき、ルーブ・ゴールドバーグ・マシンよろしく遠大な因果を経て幸運が訪れる。ギャングを絡めた軽妙なコメディ。伏線があると最初からわかってると、劇は意外と盛り上がらない。★★★

7-7『オリソン

異色作2-13話の続編。スカリーを苦しめた異常犯罪者が、謎の神父の力により脱獄を果たし、再び……。「悪魔」の実存に関する非常に観念的な物語。精神と超精神の交わる状況をセリフのみならず撮影や音効にも拘り表現した本作は、傑作か、独り善がりの駄作か。★★★★

7-8『偉大なるマリーニ

首がもげて死んだ売れない魔術師マリーニ。超常現象は描かれず、マジシャンの仕掛けた手の込んだ犯罪を追っていく。伏線を回収し謎を解く正統派なミステリーだが、なにせマジシャンなのでトリックはなんでもありだし、盛り上がりどころに欠ける。退屈。★

7-9『神のお告げ

閉鎖的な教会から逃げた女性。彼女を助ける神父の関係者が次々とガラガラ蛇に襲われる。カルト宗教エピの中でもとりわけ激しい嫌悪感を催させる物語。「蛇堕ろし」のシーンは強烈。結末の逆転の真相は脚本術としては正しくとも、テーマが混乱した印象に。★★★

7-10『存在と時間 Part 1

少女失踪事件に妹の喪失を重ね合わせ、更に彼を襲った悲劇から捜査にのめり込むモルダー。妄想と現実のはざまで揺れ動く彼の心を描く。が、ただ描き続けただけという感じで深みは感じるが物語の発展が見えない。久々のスキナー活躍は嬉しいが。★★

7-11『存在と時間 Part 2

見つからなかった最後の子供の遺体。そこに心霊捜査官が現れ……。心霊現象を正面から肯定し、殺された子供たちへの哀悼を描く。現実の凶悪事件への癒しともなる物語。美しい表現だったが、これがモルダーの妹のプロットの幕引きだとしたら大変不満足。★★★

7-12『X-コップス

警官のパトロールに密着取材する人気番組『コップス』を模したモキュメンタリー。取材中に起きる奇妙な連続事件にモルダー&スカリーが絡む。パロディだけに全編笑いどころ満載。オチが無いのもらしいと言えばらしいが、もうすこし驚きがあれば。★★★★

7-13『ファースト・パーソン・シューター

仮想空間ゲームで本当に人が殺された! ウィリアム・ギブスン脚本のサイバーSFだが、中途半端で腑に落ちない設定と物語で、見どころはコスプレぐらい。フェミニズムの視点を盛り込んだのは巧いが。スカリーの恰好は出オチでしょ。★★

7-14『呪い

医師の家族を襲った謎の死。そこには土人形の形跡が……。古代の呪術が現代医学の形をとって襲い掛かる。実験的な作風続きの中、久々にピュアなホラー劇。SF的な驚きを排してじっとりと怖がらせる。MRIを使った呪殺はこれぞホラーという出来栄え。★★★★

 7-15『

タバコの男に連れられ、スカリーがたどり着いたのは謎のコミュニティ。そこで彼女が得たものは……? 陰謀プロットの一部だが、物語に芯がないまま状況だけが進んでいる印象。タバコの男の悲哀を描くにしても、思わせぶりなセリフだけで中身がなければ伝わらない。★★

7-16『キメーラ

今回のゲスト怪物はキメラ。といっても三獣合体の怪物ではなく、中世の「相反する愛欲の象徴」としてのキメラが登場する。平和な住宅地の暗部が妖怪化して現れるのは6-15の焼き直し。全体的にスローで展開もありがち。最後の怪物大暴れには気合を感じたが。★★

7-17『宿縁

ジリアン・アンダーソン脚本・演出。主役はスカリー。リズミカルな音が人の出会いと別れ、運命をリリカルに表現する、いかにもなトレンディ・ラブドラマ。そこにふっと宿命論的なオカルト表現が差し込む。このバランスが絶妙。シリーズの底なしの懐の深さに驚く。★★★★

7-18『ブランドX

大手タバコ会社の関係者が変死。遺体の口には謎のタバコ虫が……。遺伝子組み換え技術とタバコの害悪の恐怖を訴える「社会派」怪奇ドラマ。だがテーマを持て余したのかプロットの完成度が甘く、結果的チープな「タバコって怖いね」話にしかなっていない。★★

7-19『ハリウッドA.D.

X-ファイルの映画が作られることに。ギャリー・シャンドリングの下ネタに、ティア・レオーニとドゥカヴニーの競演、泡風呂、ハゲネタ、ゾンビダンスとやりたい放題の番外編だが、ほとんど物語の体をなしてない。まあ楽しみましょうや。★★★★

7-20『ファイト・クラブ

顔も性格もそっくりな女性2人が会ったとき、超常現象が……! 科学的整合性はほぼ皆無のドタバタコメディだが、名コメディエンヌのキャシー・グリフィンに頼った感じ。脚本の奇抜さによる爆発力のある笑いがない。お笑いエピも少々飽きが出てきた。★★★

7-21『三つの願い

今回の怪人はなんとアラブの精霊ジン(の女性版ジェナイア)! ギャグ回も遂に来るところまで来た感がある。透明人間、大爆発、無人の街と、3つの願いを叶えたバカのバカっぷりを贅沢すぎる特撮で魅せ、その陰にジェナイの虚しさをほんのり漂わせる。満腹。★★★★

7-22『レクイエム

なんと第1話のキャラが再出演し、かつての怪現象に再び挑む。展開はスローでイライラする部分もあるが、クライマックスのUFO遭遇シーンは霊的なイメージも相まってさすがに高揚感がある。スキナーが目撃者となる構成も、今後の物語の変化を感じさせ巧い。★★★★

 

まとめ

総ポイント数

69 / 110

平均

3.13

感想

これまでのシーズンが素晴らしかったが故に、結果としてずいぶんと★の数が少なくなってしまった。さすがに7年目となって、シナリオも演出も、見慣れてしまったのだ。円熟期を過ぎて、マンネリ期に入ったといってもいい。

X-ファイルの面白さ本質は「真面目にバカをやる」ところにあるんだが、これまでのシーズンを通して、スタッフは「ここまでやっても怒られないかな? 笑ってくれるかな?」と徐々に笑いをエスカレートさせてきた。それが、シーズン6でその頂点に達してしまったのだと思う。それは実験的な作劇手法にも言えるし、モルダー&スカリーコンビの関係性のドラマにも言える。もはやシリーズとして伸びしろがなくなってしまったのだ。

今シーズンも、実験的な手法とギャグ、ホラーが高度なレベルで結びついたエピはたくさんある。実際のリアリティ・ショーを模した『X-コップス』、オカルトを差し込みつつも、スカリー主演のトレンディドラマに徹した『宿縁』、壮大な特撮で「ランプの精」コントを繰り広げた『三つの願い』などだ。

どれも一級品の完成度で、X-ファイルという枠の中で「こんなこともできるんだ!」という驚きを与えてくれる。だが、「こんなの見たことない!」という感動は、得られなくなってしまった。一方で波長が合わない脚本は、これまで以上に退屈に見えてしまう。難しいところだ。

もう1点残念に思うのが、ドラマの経糸のひとつであるモルダーの妹の存在。この幕引きが、『存在と時間』で図られたのだが、UFOや軍の陰謀とも大きく絡んできた過去の経緯からすれば、驚くほど小ぢんまりしたものだった。

ただ、そのエピソードは別の意味で異色作であるとも言える。陰謀論とも怪物・怪人とも一線を画し、現実的な凶悪事件のもたらす被害を描いているのだ。怪奇ドラマの主役であるモルダーの奥底にある犯罪被害者という側面にこの上ないリアリティを持たせ、そのうえで、ひとふれの奇跡とともに魂の救済を表現して見せる。これは、現実の被害者たちにも癒しを与える物語だったのだ。

X-ファイルには、ときおり時事的な問題にズバリと切り込んでくる、社会派ドラマの側面もある。この前後編も、その系譜にあると言える。時代が、癒しを求めていたのかもしれない。

シーズン7の『本筋』

X-ファイルの本筋である「異星人と政府の陰謀」という連続ストーリー(アーク)に属するエピソードは1話『第六の絶滅 Part1』、2話『第六の絶滅 Part2』、10話『存在と時間 Part 1』、11話『存在と時間 Part 2』、15話『』、22話『レクイエム』。

メモ

ブランドX』はタバコ虫が人の顔に群がる「虫こわい」話なんだけど、タバコ虫って大きくて1mmぐらいの、ダニみたいなヤツだよな? 劇中出てくるのはアズキ豆ぐらいの大きさなんだけど……。演出上の要請か、米国のタバコ虫はマジであんなにデカいのか。どっちにしろ怖い。ちなみにこのタバコメーカーは、タバコの男が吸ってるマルボロ似のブランド。