farsite / 圏外日誌

Gaao Line's Web Journal: Writing about US/UK TVs, cinemas, and foods I love.

X-ファイル シーズン3 海外ドラマ全話レビュー

Twitterを使った『X-Files』おおよそ140文字エピソードガイド&感想、第3シーズン。

あらすじ

f:id:debabocho:20150905080052p:plain

墜落したUFOから奇跡の脱出をし、証拠映像を得たはずのモルダー。しかし陰謀組織の振るう力により、真実は遠ざけられ、巻き添えとなったスカリーの姉が命を落とす。巨大な力の前に無力感を味わう捜査官たち。しかし怪事件は彼らを離さなかった。異能力者、サイコパス、神話的存在たちの起こす異常犯罪に、二人は立ち向かっていく。

陰謀組織は米国にとどまらず日本やフランスなどの国とも関係し、第二次大戦中から存在していたことが明らかになる。モルダーとスカリーの親たちが陰謀に巻き込まれていた事実もあらわになり、もはや二人にとって陰謀との対峙は逃れられない運命となる。組織は何を隠し、何を実現しようとしているのか? その真の実態が、少しずつ明らかになっていく……。

レビューリンク

| Index | シーズン1 | シーズン2 | シーズン3 | シーズン4 | シーズン5 | シーズン6 | シーズン7 | シーズン8 | シーズン9 | シーズン10 |

 

エピソード・レビュー

3-1『祈り』

墜落UFOのなかで爆死したと思われたモルダー、インディアンの儀式で蘇るのまき。この臨死体験がビデオ合成バリバリのチープなスピリチュアルイメージで、さすがにこれは笑っちゃう。もったりとした展開でとくにこれはといった展開もなく次回に続く。★★

3-2『ペーパークリップ』

異星人の証拠テープ争奪戦のついでにモルダーの親の秘密やらスカリーの姉の死やら、どたばたと詰め込まれた展開に。予防接種をネタにした政府の陰謀はスケールの大きなホラで面白いけど、モルダーがまくしたてるだけじゃちょっと物足りない。★★★

3-3『D.P.O.』

ジャック・ブラック出演で彼が怪人かと思いきや、彼はサイドキック。思春期を迎えた知的障碍者の恋と性欲というなかなか際どいテーマを、雷を操る超能力を重ねて描く。ただ中身は深い人間描写もSF性も乏しい単なるサイコパスストーリー。★★★

3-4『休息』

警察に協力するインチキ霊能力者。だがもし本当に 霊能力者を持つ人間がいたら? そんな"if"を描くSF。派手さはないが、能力を持つ中年独身男性の醸し出す滑稽さと悲哀がじわりと伝わる。二人の霊能力者が巡りあってしまった時の会話、スカリーの表情も見事。★★★★

3-5『名簿』

ニーチェとあだ名された死刑囚。彼が死に際に叫んだキリストさながらの復活と復讐。予言通りウジにまみれ殺されていく男たち。クリス・カーター脚本演出の本作には西洋文明の教養に根ざしたテーマがあったのか、それとも何もなく、ただ不可知の恐怖だけだったのか。★★★★

3-6『胃液』

ネットデートを通じて女性を食い物にする男の暴力性、性犯罪を、胃液を吐き相手を溶解させる異常者という設定に仮託して描く社会問題啓発モノ。もう少し心理描写があれば。被害者の娘が視覚障碍者なのは盲目的な愛の比喩だろうが、これもあまり活きていない。★★★

3-7『歩兵』

お題は幽体兵士と湾岸戦争症候群。といっても精神疾患ではなくド直球に両手両足を失った兵士が出てくる。重度熱傷の特殊メイクといい、一瞬現れる幽体の表現といい、力の入ったSFX。ホラー然としたショック映像を纏っているが、戦争遂行の責任を問うテーマは骨太。★★★★

3-8『土牢』

小児性愛者に5年間監禁されていた女性。進行中の誘拐事件とシンクロして、彼女の体に傷が増えていく……。彼女の傷は不思議な現象どまりでSF的整合性はないが、妹を誘拐されているモルダーの設定と絡み、良い演技が見られる。小児性愛者の表情もリアルで不気味。★★★★

3-9『二世』

原語タイトルも "Nisei" で、日本絡みのエピ。731部隊の生き残りが闇組織と関係し、異星人の生体実験をしていたという真っ向勝負の陰謀論。アクション豊富でスピード感があり、どんどんと謎が深まる目の離せない展開。鉄道の撮影の美しさも印象的。★★★★

3-10『731』

前回の続編。冒頭で異星人と人間の交配種収容所が示され、捕虜の人体実験と日系人収容所という日米双方の政府が犯した戦争犯罪がテーマとして浮かび上がる。ここが前編の本当のクライマックスだったんだな。以降は密室爆破スリラー。アクションも謎も良い塩梅。 ★★★★

3-11『黙示』

聖痕を持つ子に羽や角はないけど天使と悪魔が出てきて、完全に聖書オカルトもの。このテのネタだとコンビの立ち位置も逆転、モルダーの宗教へのツッコミはスカリーの陰謀論へのツッコミの3倍激しい。最後、スカリーの信仰と懐疑の告解は聴きごたえがある。★★★★

3-12『害虫』

人喰いゴキブリパニック! 体内を這うゴキブリ、美人昆虫学者、コンビニ食料奪い合い、締めは大爆発! 若干パワフルさに欠けるがX-ファイルの底抜け馬鹿話の良さが出てる。ゴキブリ型異星人ロボット説に対し「モルダーあなた頭だいじょうぶ?」はなかなか強烈。★★★★

3-13『星』

同じ日に生まれた処女のティーン2人が、悪魔崇拝にハマり不思議な力を得る。最後は超能力大戦になる、映画『キャリー』の変奏。スカリーとゲスト女刑事のいがみ合いも含め、キャラの個性は楽しいが、女は怖いというお話で終わってしまいいまいち物足りない。★★★★

3-14『グロテスク』

キリスト教や悪魔関係のネタが多い今シーズン。今回もガーゴイルが人の精神に憑依する悪魔だということがほのめかされる。暗い画面にカートウッド・スミス(吹替:若本規夫)の怪演が目立つが、真犯人が「なぜ」こうなったか説明がない筋書きは釈然としない。★★★

3-15『海底』

フランス人ダイバーがサルベージしようとしたのは何だったのか? 第3の原爆の存在、感染する黒い液体、スカリーの姉の謎も絡み物語は香港へ。巨大な陰謀の話だが、推理ドラマとしてきちんと骨格があり引き込まれる。潜水艦の特撮はHDで見ると模型っぽくて苦笑。★★★★

3-16 『アポクリファ

UFOの陰謀が戦時中から続くものであることが判明する。スカリーの姉殺しに一応の決着がつくが、今回の前後編も謎がさらに広がるだけで落ちが弱い。スキナーの吹替え、初期の小物然とした声からずいぶん渋い声に変わってきた。声優マジック。★★★

3-17『プッシャー』

言葉や視線だけで相手を暗示にかける超能力犯罪者を追う。虚言癖や日本趣味など彼のとりとめのない性格設定は、精神異常者であることの表現なのだろうけど物語にさほど活きてこない。ハードな雰囲気はいいがテーマが伝わらない。★★★

3-18『骨董』

アメリカ原住民族の巫女の骨壷が呼ぶホラー。大量のネズミやネコが人間を襲うシーンが続き引き込まれるが、クライマックスが来ないまま終わった感。公衆便所の蓋が一斉にガタガタと鳴り出すシーンは出来がいい。アマルの呪いがアナルの呪いに聞こえる。★★★★

3-19『賭博』

超常現象は絡まず、LA中国人街の闇賭博と臓器移植を描く。若き日のルーシー・リューとDB・ウォンが共演する超豪華エピ。移民社会への偏見に繋がりかねない内容だが、ウォン演じる中国系警察官がマイノリティとしての立場を上手く表現していて好感。オチも怖い。★★★★

3-20『執筆』

作家のインタビューを通して典型的な異星人誘拐事件を描く。プロットはシャッフルされまくり、モルダー&スカリー含め支離滅裂で誰が真実を言っているのかちっともわからない。おぼろげな真相は視聴者の理解に委ねられる。こんな手法ができるのがこの番組の凄さ。★★★★

3-21『化身』

スキナー副長官が主役となるエピ。常に寡黙でハードボイルドな彼の内面に迫るのだが、そのネタが妖魔サキュバス(スクブス)! 夢のなかで老婆の淫売に襲われるスキナーという狂った状況をシリアスにまとめる製作陣に脱帽と言うか愕然というか……。話の筋は曖昧。★★★

3-22『ビッグ・ブルー』

レイク・プラッシド! ネッシー狩りするモルダー&スカリーとその飼い犬。例によって微妙に盛り上がりのツボを外した展開。しかしそこで交わされる二人の『白鯨』についての会話は、シリーズの本質を突いている。しかしお前らいつ船舶免許取ったんだ。★★★★

3-23『電波』

お題はサブリミナル。テレビに隠された信号が狂気と殺人を誘発する。意外と早くオチがついたと思ったら更にもう一山ある、お得感のある展開。ローンガンメン再登場、UFO陰謀とも結びつく正統派のX-ファイル案件だが、それ故ネタに突飛さがなくどこか物足りない。★★★★

3-24『タリサ・クミ』

タイトルは聖書にあるイエスの言葉「起きよ」。その名の通り人命を救う奇跡を起こす男に、なんとタバコの男が対峙する。陰謀は何のためか、異星人を知った人類はどこへ進むべきなのか。ドストエフスキーの小説をベースとした宗教と科学の対話は見応え十分。★★★★

まとめ

総ポイント数

87 / 120

平均

3.63

感想

シリーズの骨格がずいぶんと定まってきた。 序盤のしょっぱさは残念だが、中盤以降、X-ファイルの真の持ち味である「バカさ」が表に出てくる。ゴキブリエピ、ネッシー狩りエピなどがそれだ。そんなバカシナリオのなかに、ふっと重要なテーマを織り交ぜてくるのが、この作品の凄いところ。シーズン最後の展開直前に挿入されたネッシー狩りエピはまさにそれだった。

陰謀編では『二世』『731』が出色のでき。戦時中の日本の人体実験だけでなく、米国の強制収容も思わせる内容で、大儀のために無辜の命がどれだけ犠牲になるのか、という社会的テーマを、UFO陰謀プロットに乗せて描いている。

このほか、駄作か傑作か紙一重でとらえどころのない5話、湾岸戦争症候群を題材にした7話などが印象に残った。

第3シーズンの『本筋』

X-ファイルの本筋である「異星人と政府の陰謀」という連続ストーリーに属するエピソードは、1話、2話、9話、10話、15話、16話、23話、24話。20話もそうといえばそう。

メモ

3-14話、これみよがしに「気でも違ったの」というセリフが何度か出てきたけれど、90年代の放送当時すでにきちがいは自粛ワードになってたよな。なんだろう、表現の限界を探るためにチャレンジしてみたのか。