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スター・トレック:ディスカバリー - 世界の全肯定が生んだ新しい物語

2017年イチ推しの作品と訊かれれば、『スター・トレック ディスカバリー』を上げるしかない。それは私が長年のスタートレックファンだからで、とても客観的な評価とは言えないのだけれど、このシリーズが表現して見せた世界、宇宙には、心底感動した。ものすごくスタートレックでありながら、ものすごく新しい宇宙だ。

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ディスカバリー』の解決

50年の歴史と720話を超えるエピソード、作品内では300年にわたる歴史を描いてきたスタートレックの最新作。設定の入り組んだ魅力的な作品世界を忖度すれば、物語は容易にパターナリズムの虜となる。スター・ウォーズですらエピソード7でそうなりかけたのだ。ところが革新性のため古い設定を打ち壊せば、ファンはまったく納得しない。

これを、『ディスカバリー』は、どう対処したのか?

ディスカバリー』は、あらゆるシリーズ、エピソードの設定を、ほとんど無秩序に取り入れた。設定の整合性ではなく、世界の構成要素、質量そのものを、全肯定した。そのうえで、そこに新しい物語を築きあげた。ものすごく難しいことをやってのけたのだ。ターンエー・スタートレックだ。

スタートレックはディティールに宿る

細かいことだ。作品世界的には1960年代につくられたオリジナル・スタートレック宇宙大作戦』に近い年代だから、有名なガジェットであるフェイザー銃やコミュニケーター、転送装置などはオリジナルの造形を踏まえて、ブラッシュアップしている。ところが宇宙船の効果音(ビープ音など)は100年後を描いた『新スタートレック』のものを使い、一方宇宙船のスクリーンに現れるアラート表示などは劇場版スタートレック準拠。『ディープ・スペース・ナイン』、『ヴォイジャー』、『エンタープライズ』、はては『まんが宇宙大作戦』の設定すら拾っている。

ディスカバリー』の世界は、過去どのTVシリーズ・映画とも違う雰囲気を持っているのだけれど、その中には旧作からの、無数のディティールが詰め込まれている。

仇敵となるクリンゴン人の造形もそうだ。『宇宙大作戦』当時は特撮費用の限界から人間そっくりだった彼らは、その映画版から前頭部に骨の隆起を持つ独特の容姿へと変貌を遂げ、定着した。今作ではその特徴を残しつつ、その他のディティールが大きく変えられた。みな地球人が見上げるような巨体となり、後ろ髪が無くなって目はライオンのような肉食獣のもの。鼻の孔は4つになった。

頭だけ残してあとは好きにした、ともとれるデザインだけど、そうじゃない。たとえば4つの鼻の孔、これは『新スタートレック』115話で作られた「クリンゴンの臓器はほとんどが2つ以上の冗長構成になっている」という設定を反映してると思われる。内臓が冗長化されてるなら、内臓への入り口である鼻の孔も冗長化しているのではないか? というわけ。好き勝手どころか、ものすごく細かく汲み取ってる。

真摯なのだ。『ディスカバリー』は、過去のシリーズで1話々々積み上げられた「クリンゴン」という種族、文化、社会を、丁寧に理解して、取り込んでいる。事実、前半10話のクライマックスは、まさにクリンゴンの「決闘文化」という設定が無ければ成立しなかったものだ。『ディスカバリー』はスタートレック世界のディティールを、進化させている。

伝統と革新性のミックス

一方で、ディスカバリーの第1話ではクリンゴン人の棺をまとった「死者の船」が登場している。有名な「クリンゴンは死体を抜け殻とみなし捨て置く」という設定を反故にするものだ。これは後に別のクリンゴン人が死体を倉庫に積み上げている描写を置くことで、異端思想だったのではという解釈を残しているが、いずれにせよ新しい物語の構築のため、捨てるべきものは捨てる、という姿勢が感じられる。

また、『ディスカバリー』はスタートレック宇宙の根幹にも大胆にメスを入れている。これまで恒星間の移動に欠かせない設定であった超光速移動技術「ワープ」とは別に、“生物学”をベースとした未知の超光速ロジックを導入。物語の根幹を成すと同時に、宇宙や生命の発生そのものに関わる大胆でユニークなSF性を獲得し、更には物語が進むにつれ「未知への憧れ」というシリーズ全体の哲学をも体現する設定に昇華させている。まったく見たことのない宇宙が、そこにある。

 

ディスカバリー』は、スタートレックの伝統と、物語の革新性という二律背反をうまくコントロールして、「まだ誰も見たことのなかったスタートレック」という、視聴者が期待していたものを作り上げた。私はそう思う。もちろん色々と言いたいこともあるけれど、ここまでやってくれたら十分だ。いちファンとして、最高の作品を観ることができた。

 

2018年1月からは、第1シーズンの後半が始まる。『スター・トレック ディスカバリー』が、来年も最高の作品であらんことを!