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『スター・トレック イントゥ・ダークネス』 映画感想 - スポックとハリソンという鏡像

えー、様々な想いがあるんですが、1点に集中して書きます。

 

スター・トレック イントゥ・ダークネス』は2009年の『スター・トレック』の続編となるリブート・シリーズ第2作。今回も60年代~2000年代まで続いた“旧シリーズ”(この表現が適切かどうか…)の様々な設定を巧く取り込みながら、23世紀を舞台としたアクション大作に仕立てている。

ただ、前作と大きく違うのは、アクションの裏に、旧シリーズと同じく明確な社会的テーマとSF性を込めてきたことだと思う。それは架空の未来世界を通して描く、9.11のようなテロの起こる社会への視点。その根幹にあるのは、「もしも“人間と認められない人間”がいたら、私たちはそれに、どのように関わっていくだろうか」というSF的発想だ。

それを表現するのが、今回の敵役、作られた超人であるジョン・ハリソンと、地球人と異星人のハーフ、スポックだ。二人は、“人間”である主人公、カークを軸に、対になってこの映画をかたちづくる。

人間以外の視点から、人間とは何かを知る

スタートレックシリーズには、“人間以外のひとびと”が常に仲間として存在していた。名前だけ上げれば、60年代のオリジナル・スポック、続編シリーズのデータ少佐、オドー、7 of 9。また、数々のゲスト異星人たち。

彼らの人間から半歩はみ出した思考や行動、また彼らの人間への視点、ときに人間へのあこがれが、逆説的に“人間とはなにか”を表現してきた。スタートレックのSF性の核は、宇宙船でもクリーチャーでも、ましてスペースバトルでもなく、ここにあると信じている。

ジョン・ハリソンの視点

本作でのジョン・ハリソンも、まさに“人間以外の人間”だ。ただし敵役だが。人間によって作られた優性人類である彼は、強い力を持っているにもかかわらず、同胞を人質にとられて人間から道具のように都合よく使われてきた。

彼のため込んできた怒りが頂点に達したとき、彼は復讐を始める。自らの心を闇の中に落としこんで、人類のあらゆるものを破壊しようとする。まさに、大国にいいように利用されてきた、アラブ人を筆頭とするマイノリティーへのメタファーだ。

ジョン・ハリソンにカークの言葉、人間の価値観は通じない。殴っても殴っても復活する。現実のテロリストに自由主義国家の価値観が通じず、消え去らないように。

人間にとっては“闇”であり“悪”でしかない彼に、どう接していけばいいのか。人間の代表であるカークは戦いながらも悩み続ける。なぜなら、彼には闇の中にあるハリソンの視点と苦悩が、薄ぼんやりと見えているからだ。しかし、どう解決したらいいのか、その答えは得られない。

ハリソンの鏡合わせ、スポック

ところが、この映画には忘れてはならないもうひとりの“人間以外”がいる。スポックだ。

彼もハリソンと同じように人間より優れた力を持っていながら、故郷を破壊されたマイノリティーだ。いや、故郷の中ですら、人間とのハーフである彼は徹底的なマイノリティーだった。

しかし彼は、カークの親友であり続ける。カークにその異質な考え方をなじられ、尖った耳を笑われながらも、けなげなほどに親友でありつづける。ある意味、カーク=人間にとって都合のいいキャラだけれど、本質はそこではない。重要なのは、カーク=人間にとって異質なスポックとも、相互理解ができ、友情をはぐくめることを、カーク自身が証明していることだ。

異質な存在であっても、スポックの中には確固とした論理が存在している。またそれ故カークを温かく見つめ、カークを理解しようとしている。カークもそれを知っているから、すべてをさらけ出し、スポックを尊敬し、理解しようと務め、友情を求める。

ハリソンで得られなかった問題の答え。少なくとも答えを出すための鍵は、見えていたのだ。スポックを通して。

理想を描くこと

クライマックスで、スポックはハリソンを殴る。殴り続ける。前半でカークがハリソンにしたのと、まったく同じように。異質な論理に包まれたスポックにも、カークと一分も変わらない感情が存在していたことを、私たちは見せつけられる。強烈に。

それは、自らの邪悪な半身に対する、スポックの内なる怒りにも見える。

そしてこの映画は、本質的に問題をなにも解決せずに終わる。ハリソンは冷凍睡眠へと戻される。問題が先のばしにされるだけだ。カークはハリソンの存在によって、救われるのだが。

スポックとカークは親友であり続け、共に深宇宙の闇へと航海を始める。おそらくは、先のばされた問題の答えを、いつか見つけるために。

いや、その航海をする姿そのものが、問題への答えなのかもしれない。

 

人間以外の存在を描くことによって、人間とはなにかが見えてくる。それは自らの醜さかもしれない。或いは、人間は異質であっても理解しあえる存在だという、理想なのかもしれない。

その理想の姿を、24世紀という未来世界に描くことが、スタートレックシリーズの役目であり、感動の本質なのだと、ずっと思っている。

 

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圏外日誌補足:なんど読み直しても違和感があるとおもったら、ジョン・ハリソンをずーっとジョン・ハリマンと書いてました(修正済み)。ハリマンは『スタートレック:ジェネレーションズ』でB型エンタープライズの艦長したひとね。ややこしい!