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X-ファイル シーズン8 海外ドラマ全話レビュー

Twitterを使った『X-ファイルX-files)』おおよそ140文字エピソードガイド&感想、第8シーズン。

あらすじ

f:id:debabocho:20160706135749j:plainUFOに誘拐され行方不明となったモルダー。カーシュ長官代理はある思惑からモルダーの捜索を進めるため、ドゲット捜査官を送り込む。一方、スキナー副長官とスカリー捜査官も、陰謀説を暴くため、親友である彼のために、モルダーを追う。スカリーにはもうひとつ、人工授精で身籠った子供のためにという、隠れた目的があった。

彼らの奮闘も虚しく、モルダーの確保は失敗に終わる。懲罰的にX-ファイル課に配属されたドゲットは、モルダーの影響で常識にとらわれない思考が身に着いたスカリーやスキナーのやりかたに戸惑いつつも、通常の科学では説明のつかない様々な事件と対峙し、彼女らのやり方を受け入れていく……。

レビューリンク

| Index | シーズン1 | シーズン2 | シーズン3 | シーズン4 | シーズン5 | シーズン6 | シーズン7 | シーズン8 | シーズン9 | シーズン10 |

 

エピソード・レビュー

8-1『サーチ・フォー・モルダー 前編』

カーシュ配下のドゲット捜査官と、スカリー・スキナーコンビが反目しながらモルダーの捜索にあたる。展開には杜撰なところも感じるが、後半は緊迫感も出て後編に期待が持てる。すっかりUFOシンパになったスキナーが心強くも可愛い。★★★

8-2『サーチ・フォー・モルダー 後編』

ギブソン少年を狙う異星人のシェイプシフター。砂漠のただ中の学校で、彼は誰に化けているのか? 一種の閉鎖空間で疑心暗鬼のゲームが展開する。その緊迫感はかなりのもの。ただ肝心のモルダーを取り戻すという筋が脇に追いやられた。★★★★

8-3『爪痕』

ドゲット&スカリーペアの一発目はド直球の怪物譚で、お題は蝙蝠獣人。いかにもな展開の中で、モルダーになろうとして空回りするスカリーの葛藤が紡がれ、観終わると充足感がある。ホラーらしく笑えるシーンもあり。手漕ぎボート漕ぎながら「動くな!」はないだろ。★★★

8-4『ロードランナー

ユタの砂漠の小さな集落で出た死体。住民が信じているものの正体は……? またも剛速球なホラーもの。バナナほどの巨大なナメクジ寄生生物が妊娠中のスカリーを襲う! それだけで満腹感のある設定。ドゲットの立ち回りもシンプルで無駄のない良質ホラー。★★★★

8-5『冥界の使者』

誘拐事件から10年後。家族のもとに戻ってきたのは、当時のままの子供だった。不気味な子供の引き起こす怪現象は文字通りオーメン的。ある意味チープだが、そこにハードな小児誘拐ドラマのプロットがうまく噛み合っている。ドゲットの過去の謎の片鱗も見える。★★★

8-6『レッドラム』

彼は気が付くと殺されていた。次の瞬間、彼はその前日にいた。時間逆行ミステリー。6-14話にも似るが、この設定を活かした謎解きとタイムリミットによる緊迫感は一級品。唯一の問題は「なぜ逆行したか」が、また「意志の力」で、SF的な驚きに欠けること。★★★★

8-7『第三の目』

薬物で強制的にチャクラを開いた男。彼が作る死と幻想に、ドゲットとスキナーのハードボイルドコンビ挑む。陰影を使った撮影が素晴らしく、音楽と合わせ極上の不気味さを演出する。明確なオチが示されず恐怖を引きずったままの幕切れは好みの分かれるところ。★★★★

8-8『透視』

邦題どおり透視能力者がゲスト怪人。その透視描写はかなり独特かつ洗練されている。とはいえ銃の命中スキルとは別モノだと思うのだが……。弱視で支配的な兄の存在は、透視能力者の鬱屈した性格に呼応し納得感があるが、いかんせん物語に起伏が少なく盛り上がらない。★★

8-9『救済』

生きる金属と化したイラク戦争の英雄、メタルヒーローの孤独な復讐を描く。シリアスな物語、ハードな雰囲気、上質なSFXで怪人のリアリティがよくでている。だがかつて液体金属ターミネーターを演じたロバート・パトリックが金属人間を追うのはそれ自体がギャグ。★★★

8-10『バドラ』

バドラとはヒンズー語で復讐。米国企業のインド進出で村を失った足のない物乞いの少年が、幻覚術で人々を殺して回る。小人症俳優による怪人は凄みがあるが、怪人の復讐劇という構成はマンネリ気味。展開も散漫で「真実を見る目」というテーマに腹落ち感がない。★★

8-11『ギフト』

モルダーが失踪直前に訪れていた小さな町。その住人がひた隠しにするのは……? 野人とモルダーの謎を追って、なんともまだるっこしい捜査が展開。ところが終盤、野人の真の能力とモルダーの目的がぴたりとハマってすとんと腹落ちする。スカリーの出番はなし。★★★★

8-12『メデューサ

ボストンの地下鉄に潜むのはなんだ? ドゲット率いる調査隊が挑む地下迷宮物件。暗いトンネルが作る緊迫感は非常に高く、スカリーを地上の司令部に置いた構成も巧い。ただ展開は強引すぎる。変死体がゴロゴロ出てきても地下鉄止めない責任者って……。 ★★★★

8-13『受胎』

スカリーが身籠ったのは誰の子なのか。人間に異星人の子を産ませる陰謀と、モルダーとのフラッシュバックを交えながら明らかにしていく。印象的なスカリーのテーマ曲が全編を覆い、彼女の感情を映したような繊細な撮影。物語はスローだが人間ドラマとして見入る。★★★★

 8-14『デッドアライブ 前編』

還ってきたUFO誘拐被害者とカルト宗教の謎。そしてモルダーが……! 新キャラ、レイス捜査官登場でスカリーとの鞘当てが楽しい。筋の分かりにくい脚本だが、衝撃のラストに持っていかれる。UFOもずいぶんハッキリ現れるようになったもんだ。★★★★

8-15『デッドアライブ 後編』

異星人ウィルスを持つ遺体は甦り体組織が変性する! 墓から掘り起こされたモルダーの命運は? なんとナノマシンまでが伏線になり、クライチェックの暗躍 も見られる。しかしオチは拍子抜け。ドゲットのカーアクション意味ないじゃん……。★★★★

8-16『パスワード』

政府は特定の遺伝子保有者を監視していた? 復帰早々ニコニコ顔で大陰謀を解き明かすモルダー、スリー・ガンメン引き連れミッション・インポッシブルを敢行! 詰め込みぎみの物語でドゲットとモルダーのコントラストがいまいち明確にならなかったのが残念。★★★★

8-17『秘密』

今回の怪物は伝染する悪意そのもの。ドゲットの殺された息子の事件と、彼の内なる怒り、悪意がテーマとなる。レイエスを媒介に生まれるモルダーとドゲットの連帯感、幸福なモルダー&スカリーとドゲットの対比など、主要キャラの関係性と感情が巧く描かれている。★★★

8-18『到来』

石油プラントで発生したブラックオイル。アメリカ本土への感染は防げるのか? モルダー&ドゲットコンビで送る密室アクション! だが演出が重苦しすぎる嫌いがある。オイルの力で変化する作業員は超人兵士やTV怪電波とも繋がり、陰謀説の設定を巧くまとめてる。★★★★

8-19『アローン』

ドゲットが経理担当のレイラと組み、謎の大型爬虫類と対峙する。謎の怪物、孤独な科学者、そして密室と王道ド直球の怪奇ドラマ。派手さはないが特撮も上出来。安心して観られて、ラストシーンはほっこりと心に残る。最終話前にシーズン8を締めくくる良い物語。★★★★★

8-20『誕生 前編』

臨月のスカリーを監視する医師たち。彼らを超人として甦ったビリーが襲い、魔の手はスカリーに……。クライチェックや今シーズンのゲストキャラが勢ぞろい、クライマックスのスピーディなチーム戦は派手ではないが手に汗握る。モルダーは随分柔和になったな。★★★★

8-21『誕生 後編』

隠れ家で出産を迎えるスカリー。一方ドゲットらはFBI内部の敵に襲われ……。明確にキリスト降誕を意識した展開。カットバックが繰り返されサスペンスを盛り上げるが、実は物語に起伏は少ない。ラストシーンはこの上ない安堵感。終わりよければすべて良し!★★★★

 

まとめ

総ポイント数

76 / 105

平均

3.62

感想

ギャラの問題でモルダー役のディヴィッド・ドゥカヴニーの出演回数は減り、代わりにロバート・パトリック演じるドゲット捜査官が新たな主役として登場する。スカリーも妊娠したという設定のため一線での捜査を行うことが少なくなり、代わりにスキナーがドゲットとコンビを組むなど、変則的な出演が増えた。

モルダー&スカリーのコンビが見られなくなったことからパワーダウンしたとの評価が多いが、純粋に各エピソードのクオリティを見ると、このテコ入れは成功だったと言える。マンネリ気味だったモルダー&スカリーのコンビ芸に頼ったまったりエピソードは無くなり、肉体派のドゲットを活かしたハードでスピーディなドラマが作られるようになった。現れる怪物や怪奇現象も恐怖が全面に出され、ホラードラマとして原点に回帰したと言える。

ハード路線をリードしたドゲットというキャラクターは、後半モルダーが復活すると両者のコントラストが明確になり、一層深みが増してくる。その顕著な例が 8-19話『アローン』で、ドゲットの前では全くといっていいほど笑顔を見せなかったスカリーが、満開の笑顔でモルダーと語り合う。それをわずかな羨望の眼差しで見つつ孤独に去るドゲットの姿には、これまでのシリーズで見られなかった種類の共感を得ることができた。8年にわたる人間関係のドラマとして、非常に重要な役割を果たしてくれた。

出演しないドゥカヴニーを逆手にとって、モルダーの救出というシーズンを通した目標を作ったことも、スカリーの妊娠という設定と相まってうまく作用した。いままで風呂敷を広げっぱなしだった陰謀説が、本シーズンでは両シナリオを軸に集約され、いくつかの枝葉末節的な設定は大きな設定と整合性が採られ、終息することとなった。ただ、シガレット・スモーキング・マンの登場がなくなり、陰謀組織側がどんな体制で何を目論んでいるのかが分かりづらくなったのは残念。

今シーズンの最終話はクリフハンガーエピソードではない。まだ多くの謎が残ってはいるものの、モルダーとスカリーの物語に大きな区切りがつき、シリーズのグランドフィナーレとしても、いちおう形がつく格好になっている。シリーズの人気の衰えを感じてのことだろう。

メモ

8-7話『第三の目』ネットでは有名なスカリーの「モルダーあなた疲れてるのよ」というセリフ。実際はスカリーがこのセリフを言ったことはシリーズ通してなかったのだが、このエピソードでまさかのスキナーからドゲットへのセリフとして登場する。

帰ってきたヒトラー: 面白いアイディアなのに、なんだか退屈に感じてしまう映画

たいへん面白いテーマで、小説の翻訳が出た時は読もう読もうと思っていたものの、結局スルーしてしまった。ごめんなさい。で、めでたく映画になったんで観たわけだけど、なんとも感想が言いづらい映画だなあ。

映画の半分は、実際にドイツじゅうでヒトラーの恰好をしたオリヴァー・スマッチが市井の人々とふれあう、ドキュメンタリーの時間に充てられている。「ヒトラー」というものに対する人々の感想で成り立っている作品なので、それに対して物語映画としての感想をかぶせるのは、ちょっとナンセンスだ。

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じゃあドキュメンタリーとしてどうかというと、作者のディレクションから誘導される感想はガッチリと決まっている。「移民問題」「右傾化」「プロパガンダの怖さ」「ドイツにとってヒトラーとは何だったのか」そんなことを考えるしかないわけで、ニュースから得られている情報を上回るような、すごい気づきが得られるわけじゃない。とても面白いアイディアなんだけど、中身は総じてとても平凡なものに感じられてしまうわけ。

平凡に感じられるのは、やっぱり絵の印象も大きいだろう。街での撮影に凝ったカメラワークは難しく、また画質も高精彩とは言えない。それからヒトラーに対する人々の反応にバラエティが少ないのも難点。退屈な画面、同じようなリアクションが繰り返されるのは辛い。それが狙いであったとしても。

ただひとつ感心したのは、最後をきっちりSF作品として締めくくった点。脚本は穴だらけなんだけど(ヒトラーがどうやって出てきたかなんて、最初に気づかないわきゃないだろ!)、フィクションだかドキュメンタリーだかどっちつかずで終わるより良かった。

そんなわけで、ちょっと残念。

 

ところで、冒頭のヒトラーを描いた映像作品のコラージュで、窓枠についた四角い汚れが後ろに立つ人のちょうど鼻の下の位置にきて、ヒトラーに見えちゃうものがあったんだけど、あれはなんて作品だろう? 同じネタをアイルランドのコメディ『ファーザー・テッド』で観たんだけど、たまたまネタかぶりしたのか、どちらかが元ネタなのか。

 

 

X-ファイル シーズン7 海外ドラマ全話レビュー

Twitterを使った『X-ファイル』おおよそ140文字エピソードガイド&感想、第7シーズン。 

あらすじ

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異星人の存在は人類の歴史と信仰にも関わってきたのか? 自らの発見に驚きつつ、探求心を抑えられないスカリー。一方精神崩壊の危機に見舞われたモルダーは、異星人によりもたらされた何かが、自分の中で目覚めるのを感じていた。それを利用しようとする組織の手から辛くも脱した二人は、再びX-ファイル課の捜査官として謎の探求を始める。

彼らはこれまで以上に奇妙な、もはや科学的な説明など一切つけようのない妖怪や精霊とも関わっていく。そんな中、モルダーは異星人に誘拐されたと信じてきた妹の真相を知ることになる。秘密組織の陰謀に弄ばされてきた彼女が、最後に触れたのは神の存在であった。神秘を受け入れ、深い安堵を覚えるモルダー。しかし彼を待っていたのは、彼自身がアブダクションの被害者となるという運命だった……。

 

エピソード・レビュー

7-1『第六の絶滅 Part1

アフリカで謎の石板を調査し、超常現象に襲われるスカリー。一方精神病院のモルダーには超能力が……。2つの場所で様々な現象が矢継ぎ早に発生し、1話で2時間分の密度を感じる。怪奇現象の不気味さもしっかり。シーズンプレミアとして上々の滑り出し。★★★★

7-2『第六の絶滅 Part2

FBI本部に戻ったスカリーは行方不明のモルダーを追う。一方モルダーは研究室から平穏な日常へ……。前編に比べて派手なシーンは少なく、展開も落ち着いたつくり。モルダーの第二の人生の描写は丁寧で、特殊メイクと最後のVFXには目を見張る。★★★★

7-3『ハングリー

今週の一発ゲスト怪人は人喰いミュータント。人の脳を食べたいという衝動と戦う男の心理が、コミカルに、やがて悲哀をもって描かれる。スローだが端正に作られた短編という趣。怪人の特殊メイクは装飾を削ぎ落とし、かつ人の感情も表現できる優れたデザイン。★★★

7-4『ミレニアム

瓦解した秘密結社ミレニアムの復活を阻むため、モルダーたちはフランク・ブラックに協力を仰ぐ。打ち切りとなったスピンオフシリーズの完結編というか余話。中身はストレートなオカルト・ゾンビもので意外とこじんまり。ランス・ヘンリクセンの笑顔に惚れろ!★★★★

7-5『ラッシュ

お題は超加速能力。その力を得たスクールカースト底辺の少年たちが狂っていく様を描く。彼らの物語に青春モノ的な起伏がないのは、シャープとも言えるし単調とも言える。映像面ではさすがにバレットタイム撮影はなく、終盤の加速描写はスロー撮影と銃弾のCGI。★★★

7-6『ゴールドバーグ

今回の怪人は確率的特異点。あらゆる賭けに勝つ彼が人のために幸運を祈ったとき、ルーブ・ゴールドバーグ・マシンよろしく遠大な因果を経て幸運が訪れる。ギャングを絡めた軽妙なコメディ。伏線があると最初からわかってると、劇は意外と盛り上がらない。★★★

7-7『オリソン

異色作2-13話の続編。スカリーを苦しめた異常犯罪者が、謎の神父の力により脱獄を果たし、再び……。「悪魔」の実存に関する非常に観念的な物語。精神と超精神の交わる状況をセリフのみならず撮影や音効にも拘り表現した本作は、傑作か、独り善がりの駄作か。★★★★

7-8『偉大なるマリーニ

首がもげて死んだ売れない魔術師マリーニ。超常現象は描かれず、マジシャンの仕掛けた手の込んだ犯罪を追っていく。伏線を回収し謎を解く正統派なミステリーだが、なにせマジシャンなのでトリックはなんでもありだし、盛り上がりどころに欠ける。退屈。★

7-9『神のお告げ

閉鎖的な教会から逃げた女性。彼女を助ける神父の関係者が次々とガラガラ蛇に襲われる。カルト宗教エピの中でもとりわけ激しい嫌悪感を催させる物語。「蛇堕ろし」のシーンは強烈。結末の逆転の真相は脚本術としては正しくとも、テーマが混乱した印象に。★★★

7-10『存在と時間 Part 1

少女失踪事件に妹の喪失を重ね合わせ、更に彼を襲った悲劇から捜査にのめり込むモルダー。妄想と現実のはざまで揺れ動く彼の心を描く。が、ただ描き続けただけという感じで深みは感じるが物語の発展が見えない。久々のスキナー活躍は嬉しいが。★★

7-11『存在と時間 Part 2

見つからなかった最後の子供の遺体。そこに心霊捜査官が現れ……。心霊現象を正面から肯定し、殺された子供たちへの哀悼を描く。現実の凶悪事件への癒しともなる物語。美しい表現だったが、これがモルダーの妹のプロットの幕引きだとしたら大変不満足。★★★

7-12『X-コップス

警官のパトロールに密着取材する人気番組『コップス』を模したモキュメンタリー。取材中に起きる奇妙な連続事件にモルダー&スカリーが絡む。パロディだけに全編笑いどころ満載。オチが無いのもらしいと言えばらしいが、もうすこし驚きがあれば。★★★★

7-13『ファースト・パーソン・シューター

仮想空間ゲームで本当に人が殺された! ウィリアム・ギブスン脚本のサイバーSFだが、中途半端で腑に落ちない設定と物語で、見どころはコスプレぐらい。フェミニズムの視点を盛り込んだのは巧いが。スカリーの恰好は出オチでしょ。★★

7-14『呪い

医師の家族を襲った謎の死。そこには土人形の形跡が……。古代の呪術が現代医学の形をとって襲い掛かる。実験的な作風続きの中、久々にピュアなホラー劇。SF的な驚きを排してじっとりと怖がらせる。MRIを使った呪殺はこれぞホラーという出来栄え。★★★★

 7-15『

タバコの男に連れられ、スカリーがたどり着いたのは謎のコミュニティ。そこで彼女が得たものは……? 陰謀プロットの一部だが、物語に芯がないまま状況だけが進んでいる印象。タバコの男の悲哀を描くにしても、思わせぶりなセリフだけで中身がなければ伝わらない。★★

7-16『キメーラ

今回のゲスト怪物はキメラ。といっても三獣合体の怪物ではなく、中世の「相反する愛欲の象徴」としてのキメラが登場する。平和な住宅地の暗部が妖怪化して現れるのは6-15の焼き直し。全体的にスローで展開もありがち。最後の怪物大暴れには気合を感じたが。★★

7-17『宿縁

ジリアン・アンダーソン脚本・演出。主役はスカリー。リズミカルな音が人の出会いと別れ、運命をリリカルに表現する、いかにもなトレンディ・ラブドラマ。そこにふっと宿命論的なオカルト表現が差し込む。このバランスが絶妙。シリーズの底なしの懐の深さに驚く。★★★★

7-18『ブランドX

大手タバコ会社の関係者が変死。遺体の口には謎のタバコ虫が……。遺伝子組み換え技術とタバコの害悪の恐怖を訴える「社会派」怪奇ドラマ。だがテーマを持て余したのかプロットの完成度が甘く、結果的チープな「タバコって怖いね」話にしかなっていない。★★

7-19『ハリウッドA.D.

X-ファイルの映画が作られることに。ギャリー・シャンドリングの下ネタに、ティア・レオーニとドゥカヴニーの競演、泡風呂、ハゲネタ、ゾンビダンスとやりたい放題の番外編だが、ほとんど物語の体をなしてない。まあ楽しみましょうや。★★★★

7-20『ファイト・クラブ

顔も性格もそっくりな女性2人が会ったとき、超常現象が……! 科学的整合性はほぼ皆無のドタバタコメディだが、名コメディエンヌのキャシー・グリフィンに頼った感じ。脚本の奇抜さによる爆発力のある笑いがない。お笑いエピも少々飽きが出てきた。★★★

7-21『三つの願い

今回の怪人はなんとアラブの精霊ジン(の女性版ジェナイア)! ギャグ回も遂に来るところまで来た感がある。透明人間、大爆発、無人の街と、3つの願いを叶えたバカのバカっぷりを贅沢すぎる特撮で魅せ、その陰にジェナイの虚しさをほんのり漂わせる。満腹。★★★★

7-22『レクイエム

なんと第1話のキャラが再出演し、かつての怪現象に再び挑む。展開はスローでイライラする部分もあるが、クライマックスのUFO遭遇シーンは霊的なイメージも相まってさすがに高揚感がある。スキナーが目撃者となる構成も、今後の物語の変化を感じさせ巧い。★★★★

 

まとめ

総ポイント数

69 / 110

平均

3.13

感想

これまでのシーズンが素晴らしかったが故に、結果としてずいぶんと★の数が少なくなってしまった。さすがに7年目となって、シナリオも演出も、見慣れてしまったのだ。円熟期を過ぎて、マンネリ期に入ったといってもいい。

X-ファイルの面白さ本質は「真面目にバカをやる」ところにあるんだが、これまでのシーズンを通して、スタッフは「ここまでやっても怒られないかな? 笑ってくれるかな?」と徐々に笑いをエスカレートさせてきた。それが、シーズン6でその頂点に達してしまったのだと思う。それは実験的な作劇手法にも言えるし、モルダー&スカリーコンビの関係性のドラマにも言える。もはやシリーズとして伸びしろがなくなってしまったのだ。

今シーズンも、実験的な手法とギャグ、ホラーが高度なレベルで結びついたエピはたくさんある。実際のリアリティ・ショーを模した『X-コップス』、オカルトを差し込みつつも、スカリー主演のトレンディドラマに徹した『宿縁』、壮大な特撮で「ランプの精」コントを繰り広げた『三つの願い』などだ。

どれも一級品の完成度で、X-ファイルという枠の中で「こんなこともできるんだ!」という驚きを与えてくれる。だが、「こんなの見たことない!」という感動は、得られなくなってしまった。一方で波長が合わない脚本は、これまで以上に退屈に見えてしまう。難しいところだ。

もう1点残念に思うのが、ドラマの経糸のひとつであるモルダーの妹の存在。この幕引きが、『存在と時間』で図られたのだが、UFOや軍の陰謀とも大きく絡んできた過去の経緯からすれば、驚くほど小ぢんまりしたものだった。

ただ、そのエピソードは別の意味で異色作であるとも言える。陰謀論とも怪物・怪人とも一線を画し、現実的な凶悪事件のもたらす被害を描いているのだ。怪奇ドラマの主役であるモルダーの奥底にある犯罪被害者という側面にこの上ないリアリティを持たせ、そのうえで、ひとふれの奇跡とともに魂の救済を表現して見せる。これは、現実の被害者たちにも癒しを与える物語だったのだ。

X-ファイルには、ときおり時事的な問題にズバリと切り込んでくる、社会派ドラマの側面もある。この前後編も、その系譜にあると言える。時代が、癒しを求めていたのかもしれない。

シーズン7の『本筋』

X-ファイルの本筋である「異星人と政府の陰謀」という連続ストーリー(アーク)に属するエピソードは1話『第六の絶滅 Part1』、2話『第六の絶滅 Part2』、10話『存在と時間 Part 1』、11話『存在と時間 Part 2』、15話『』、22話『レクイエム』。

メモ

ブランドX』はタバコ虫が人の顔に群がる「虫こわい」話なんだけど、タバコ虫って大きくて1mmぐらいの、ダニみたいなヤツだよな? 劇中出てくるのはアズキ豆ぐらいの大きさなんだけど……。演出上の要請か、米国のタバコ虫はマジであんなにデカいのか。どっちにしろ怖い。ちなみにこのタバコメーカーは、タバコの男が吸ってるマルボロ似のブランド。